研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
19H05401
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
田中 俊一 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (70591387)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | タンパク質輸送装置 / 前駆体タンパク質 / 人工結合タンパク質 / X線結晶構造解析 / タンパク質工学 |
研究実績の概要 |
本研究課題の趣旨は、生体分子機械であるタンパク質輸送装置が、その内部でどのように前駆体タンパク質を輸送しているのか、その動作機序を理解することにある。本年度は、(1)タンパク質輸送装置内部で前駆体タンパク質を捕捉するための人工結合分子の作製、(2)タンパク質輸送装置を構成するサブユニット(LipB、LipC、LipD)の単体ならびに複合体の構造機能解析、(3)前駆体タンパク質とタンパク質輸送装置の入口となるサブユニット(LipB)との相互作用解析を行った。 (1)について、代表者によって既に得られていた人工結合分子を基盤に改変を行い、前駆体タンパク質に対して特異的に結合する分子の創出を試みた。しかしながら、目的とする結合能力を示す分子の創出には至らなかった。そこで、他の人工結合分子であるSpycatcher・Spytagを利用した研究へと転換した。Spycatcherは、Spytagを導入した前駆体タンパク質を特異的に捉えることが分かったため、現在、これを応用することで、タンパク質輸送装置内で前駆体タンパク質を捕捉できるかどうかを検討中である。 (2)について、各サブユニットの単体ならびに複合体の発現・精製を試みた。いずれについても大腸菌での調製系を構築することができた。既にLipBとLipCの単体については構造解析に成功しており、今後は、LipDとLipB-LipC-LipD複合体の構造解析を行う予定である。さらに、(1)の結果を基に、前駆体タンパク質をその内部に含んだ状態での複合体の構造解析も行う予定である。 (3)について、前駆体タンパク質とLipBの相互作用をSPRによって解析した。その結果、前駆体タンパク質とLipBの結合にはATPは必要とせず、一方で、結合した後のタンパク質輸送装置内部への輸送にATPを必要とすることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)タンパク質輸送装置内部で前駆体タンパク質を捕捉するための人工結合分子の作製、(2)タンパク質輸送装置を構成するサブユニット(LipB、LipC、LipD)の単体ならびに複合体の構造解析、(3)前駆体タンパク質とタンパク質輸送装置の入り口となるサブユニット(LipB)との相互作用解析、それぞれにおいて進展が見られているものの、当初の予定通りとはいっておらず、やや遅れていると判断した。 (1)について、代表者の持つ人工結合分子からは目的とする結果を得るに至らなかった。しかしながら、領域会議での情報交換から得た情報を基に、Spycatcher・Spytag を展開した研究へと転換することで、現在のところ良好な結果を得ることができている。 (2)について、タンパク質輸送装置の大腸菌での調製系の構築と、いくつかの単体サブユニットの構造解析は進んでいるものの、複合体での構造解析は出遅れている。コロナウイルス感染拡大の影響により、大型放射光施設の使用が停止したことも理由として挙げられる。 (3)について、今回の研究によって得られた新たな知見であり、今後、前駆体タンパク質とLipBの複合体の構造解析を行うことで、前駆体タンパク質がタンパク質輸送装置内部へと入る瞬間の構造学的知見を得たいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)タンパク質輸送装置内部で前駆体タンパク質を捕捉するための人工結合分子の作製 人工結合分子としてSpycatcherとSpytagのシステムを応用し、タンパク質輸送装置内での前駆体タンパク質の捕捉が可能かどうかを検討する。可能と判断できれば、以下(2)の研究項目へと展開し、前駆体タンパク質をその内部に含んだ状態でのタンパク質輸送装置の構造解析を行う。 (2)タンパク質輸送装置複合体の構造機能解析 未だ構造解析に成功していないサブユニットであるLipDと、タンパク質輸送装置複合体、そして、(1)の結果を基に前駆体タンパク質をその内部に含んだ状態でのタンパク質輸送装置複合体の構造解析に取り組む。さらに、先述の前駆体タンパク質とLipBの複合体の構造解析にも取り組む。これらの結果から得られる構造学的知見を統合し、「タンパク質輸送装置は、その内部でどのように前駆体タンパク質を輸送しているのか?」を分子レベルで明らかにする。 (3)人工結合分子の新展開 領域内共同研究を基に、代表者の持つ人工結合分子の新展開を進める。具体的には、酵素をモデルとする構造変化ダイナミクスの解析用プローブとしての開発(奈良先端大学 松尾先生)を進める。当該技術基盤の確立は、様々な発動分子のダイナミクス解析にも応用できる可能性がある。さらにこれに留まることなく、積極的に共同研究を展開していきたいと考えている。
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