研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
19H05410
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
櫻庭 俊 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 主任研究員(任常) (90647380)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 経験的原子価結合法 / 分子動力学法 / 発動分子 / 活性化エネルギー / 自由エネルギー計算 |
研究実績の概要 |
発動分子のエネルギー変換機構において最も重要なプロセスは、電子移動に伴う化学結合の変化である。生体における発動分子の挙動の原子レベルでの解析のため、これまで量子化学的効果を考慮して分子運動を解析する量子化学計算(QM)と、系を完全に古典的な力学系として捉える(古典)分子力学(MM)の2つが良く利用されてきた。両手法には精度と速度のトレードオフが存在し、QM法は精度に優れる一方、MM法は計算速度に利点が存在する。両者を組み合わせたQM/MM法なども存在するが、大規模な生体分子の構造変化を追跡するには計算量が多くまだ課題が多い手法となっている。 経験的原子価結合(Empirical Valence Bond; EVB)法は、このQM/MMとMMのさらに中間に位置する手法であり、低コストで反応過程におけるエネルギー面や反応に伴う構造変化を見積もることができる手法である。本研究計画では、発動分子の設計への応用を指向し、EVB法の生体分子への応用の範囲を広げることを目標としている。2019年度は、EVB法を分子動力学シミュレーションソフトウェアであるGROMACSに移植した。これにより、計算時間を1桁オーダーで削減し、また周期境界条件や各種力場への対応など利便性を向上させた。さらに、移植により研究代表者を含め様々な研究者がこれまで作成してきたGROMACS上の様々なパイプラインを直接利用可能になった。実際に酵母由来のトリオースリン酸イソメラーゼを対象としたベンチマークによって、活性化自由エネルギーが先行研究の予測を再現する事が示された。この一方で、GROMACS上でタンパク質などの構造変化をより正確に捉えるための、FEP/REST法と呼ばれる手法をパイプラインを含めて整備し、これにより自由エネルギー計算がより正確に実施できるようになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究により、EVB法を高速に実現するパイプラインを構築することに成功した。加えて、当初研究計画で予定していたEVB法とFEP/REST法との組み合わせが達成された。これにより、設計に用いるための障壁の多くをクリアすることに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初計画の通り、EVB法を実用するための障壁を一つ一つ取り除くことで、発動分子の設計にEVB法を用いることを可能にする。(1) 初期構造依存性の除去、 (2) 計算精度の向上、 (3) パイプラインの整備の3目標を達成することを目指し、計算手法の研究並びにソフトウエアの整備を行う。
|