研究領域 | シンギュラリティ生物学 |
研究課題/領域番号 |
19H05413
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上原 亮太 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (20580020)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 倍数性 / 染色体分配 / 細胞分裂 |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞周期異常による染色体倍加に続いて発生する大規模な染色体喪失によって生体の監視を逃れて細胞が悪性化する「倍数性逆転」現象の発生プロセスの理解を目的とする。まず2019年度は、異なる経緯で発生する染色体倍加細胞で倍数性逆転が発生する過程を長期ライブイメージングで可視化することを試みた。興味深いことに、染色体倍加を引き起こす細胞周期異常の種類の違いによって、その後の倍数性逆転が起こる頻度に著しい違いがあることが明らかになった。このことから、従来一律に確率的かつ希少な現象と考えられてきた倍数性逆転が、特定の経緯で発生する倍数性異常においてより発生しやすい現象である可能性が示唆された。さらに、染色体倍加細胞の高解像ライブイメージングにより、染色体倍加とともに倍加された4つの中心体が、間期のうちに未知の仕組みでクラスター化し、それが原因となって次の分裂期初期に高確率で単極性の紡錘体を形成していることがわかった。また、光変色性の蛍光染色体マーカーを用いた高解像イメージングによって、この染色体倍加細胞における一時的な紡錘体の単極化が細胞分裂における染色体分配のランダムさに影響を及ぼす可能性があることがわかった。 また、倍数性逆転現象の詳細な観察のための、低倍率撮像による細胞系譜追跡と、高倍率撮像による細胞分裂動態の定量解析を同時実施可能なマルチスケール顕微鏡システムの光学系の構築を行った。現有の共焦点顕微鏡に、広視野低侵襲性の長期細胞追跡を可能にする独立光学系を追加設置した。これによって、上記の染色体倍加細胞に特徴的な中心体動態が、染色体倍加細胞の倍数性逆転の発生頻度や、その子孫細胞の長期的運命に及ぼす影響を1:1対応で解析可能にする準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画どおり、長期イメージング解析により、倍数性逆転の過程、形成条件の解析のための観察系の構築に成功した。染色体倍加は、種々の原因によって発生するが、その経緯による細胞運命の違いは従来鑑みられてこなかった。しかし、上記観察系によるイメージング解析によって、予想外に、倍数性逆転の頻度が染色体倍加が起こる経緯に依存して大きく異なることを発見した。さらに、染色体倍加細胞で特徴的な中心体クラスター化現象が起こり、これも倍数性逆転現象の成否に重要な役割を果たす可能性があるという着想を得ることができた。これらの発見は、当初計画の仮説では想定していないものであったが、倍数性逆転の未知のメカニズムを理解する上で重要なヒントとなるものであると考えられる。この点で、2019年度の研究は重要な進捗をもたらしたと評価する。さらに、2019年度に光学系の確立に成功したマルチスケール撮像系を駆使することで、上記現象の因果関係に迫る研究の展開が可能になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に発見した、上記の余剰中心体クラスター化現象は、染色体倍加細胞において、倍数性逆転の成否を決する重要な要因になっている可能性が考えられるが、現時点では、これらの現象間において、相関関係も因果関係も検証できていない。そこで、①まず、上記のマルチスケール撮像系を用いて、余剰中心体クラスター現象の発生とその後の倍数性逆転の発生の相関関係を明らかにする。さらに、②中心体クラスター化の責任因子を特定し、その人為的操作によってクラスター化を解消、亢進した際の倍数性逆転の発生を調べることで、両者の相関関係を明らかにする。これらを通して倍数性逆転の発生条件の特定と人為介入可能性の実証を試みる。
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