公募研究
本研究では、生体内にて起こる特異的な生命イベントを、pH変化を指標にして「広視野かつ長時間」観察することを可能にする蛍光プロ ーブの開発を目的とする。生体内において、臓器のpHは厳密に制御されている一方、がんなどの異常部位においては活発な細胞増殖から弱酸性 pHを示すなど、pHを観察することで幅広い生命現象に対して特異点を検出できる可能性がある。また、蛍光プローブとしては、動物での蛍光イ メージングに適した650~900 nmの近赤外領域の蛍光を有し、かつ、蛍光プローブの体内分布を補正するために、吸収波長がpHによって変化することで二つの励起波長による蛍光強度の比(レシオ)を基に画像を構築するレシオイメージングへと応用できるように分子設計する。平成31年度は、これまでに開発に成功しているpH蛍光プローブ(J. Am. Chem. Soc., 140, 5925-5933 (2018))において、改良すべき蛍光量子収率の上昇を試みた。具体的には、これまでに開発しているpHプローブの分子構造を詳細に検討し、蛍光輝度の上昇に成功した。特に、Twisted Intramolecular Charge Transfer (TICT)状態への移行を抑えることで、大きな蛍光輝度の上昇を達成した。また、更なる分子修飾により、がんなどの弱酸性領域の測定に適したpKaを付与することに成功した。さらに、開発した蛍光プローブを800 nm付近に至る非常に長い蛍光波長を示し、かつ、pHに非感受性の近赤外蛍光色素と同時に高分子であるデキストランに標識することで、高い蛍光輝度を示すレシオ型pH近赤外蛍光プローブのプロトタイプを開発することに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度において、これまでに開発に成功しているpH蛍光プローブ(J. Am. Chem. Soc., 140, 5925-5933 (2018))の分子構造を改良することで、蛍光輝度の大きな上昇に成功している。また、新たなpHプローブは、酸性条件下では高い蛍光輝度を示した一方で、塩基性条件下では依然として十分な蛍光輝度ではなかった。そこで、pH非感受性の近赤外蛍光色素と同時に高分子であるデキストランに標識するという当初は想定していなかったアイディアを用いることで、高い蛍光輝度でpHをレシオ蛍光測定することを可能にする新たなpHプローブの開発に成功した。これら研究成果は、当初考えていなかった新たなアイディアにより達成できたものであり、このことからも当初の計画以上に進展しているとさせて頂いた。
今後は、新たに開発したデキストラン標識pHプローブを実際にマウスへと応用し、本pHプローブで生きた状態のマウス体内でのpHが測定可能か検討していく。さらに、マウス体内でのpH測定が可能であった場合、実際に担がんモデルマウスにおいて、非侵襲的に長期間に渡りがんの浸潤とpHの変化について経時的な蛍光イメージングを行うことを試みる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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