研究領域 | シンギュラリティ生物学 |
研究課題/領域番号 |
19H05415
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
狩野 方伸 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (40185963)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シナプス刈り込み / 生後発達 / 小脳 / プルキンエ細胞 / 登上線維 / 神経活動 / マウス |
研究実績の概要 |
生後発達期小脳の登上線維-プルキンエ細胞シナプスの刈り込みにおいて、複数の登上線維のうちから生き残る1本の登上線維が選択されるシンギュラリティ現象に神経活動がどのように関わるかを明らかにするために、以下の2項目の研究を行った。 (1)登上線維は下オリーブ核ニューロンの軸索であるので、AAVを用いて生後1-2日のマウスの下オリーブ核にtdTomatoを発現させると、一部の登上線維をこの赤色蛍光タンパク質で可視化できる。この操作を、一部の登上線維がEGFPを発現しているNefl-EGFPマウスに対して行い、EGFP(緑色)、tdTomato(赤色)、EGFP+tdTomato(黄色)のそれぞれを発現する登上線維が混在する様子を観察できた。しかし、新生マウスの下オリーブ核へのウイルス注入の成功率が低いため、一部の下オリーブ核細胞がCreを発現するCrh-CreマウスとtdToamto-floxマウスを交配して、一部の登上線維がtdTomatoを発現するマウス(Crh-Cre:tdToamto-flox)を得て、Nefl-EGFPマウスとの交配を行った。一方、タイムラプス観察の準備として、生後7日に頭蓋窓を作る手術を試みたが、頭蓋窓を安定に維持することが極めて困難であった。 (2)AAVを用いて、同じマウスの下オリーブ核に緑色のカルシウム指示蛋白(GECI)のjGCaMP7fを、小脳に赤色GECIのjRGECO1aを、それぞれ生後1日と生後2日に発現させ、登上線維とプルキンエ細胞の2色同時カルシウムイメージングに成功した。現在、様々なGECIの組み合わせを検討している。また、同じマウスに2回ウイルス注入を行うのは成功率が低いので、プルキンエ細胞に緑色GECIであるGCaMP6f を発現する遺伝子改変マウスを確立し、このマウスの一部の登上線維に赤色GECIを発現させることを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)登上線維の形態のタイムラプス観察 AAVを用いて、生後1-2日のNefl-EGFPマウスの下オリーブ核にtdTomatoを発現させ、EGFP(緑色)、tdTomato(赤色)、EGFP+tdTomato(黄色)のそれぞれを発現する登上線維が混在する様子を観察することが出来た。しかし、新生マウスの下オリーブ核へのウイルス注入の成功率が低いため、より簡便かつ安定的に、登上線維を3色の蛍光タンパクで標識するマウスを得るため、Crh-Cre:tdToamto-floxマウスとNefl-EGFPマウスを交配している。このマウスを用いて、発達期小脳をタイムラプス観察すれば、研究目的の達成が可能であると考えられる。 (2)登上線維とプルキンエ細胞の活動の同時計測 AAVを用いて、同じマウスの下オリーブ核に緑色のGECIであるjGCaMP7fを、 小脳に赤色のGECIであるjRGECO1aを発現させ、登上線維とプルキンエ細胞の2色同時カルシウムイメージングに成功した。基本的には、このやり方でも目的を達成することは不可能ではないが、同じマウスに2回ウイルス注入を行うのは成功率が低く、現実的には難しい。そこで、プルキンエ細胞に、緑色GECIであるGCaMP6f を発現する遺伝子改変マウスを確立し、このマウスの一部の登上線維に赤色GECI を発現させることを試みている。この方法が確立すれば、より効率的に、登上線維とプルキンエ細胞の活動の同時計測が可能になる。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の研究を踏まえ、登上線維の形態のタイムラプス観察は、Crh-Cre:tdToamto-floxマウスとNefl-EGFPマウスを交配して得られたマウスを対象に行う。一方、タイムラプス観察の準備として、生後7日に頭蓋窓を作る手術を行ったが、生後発達期に小脳が大きく成長するために、頭蓋窓を安定に維持することが極めて困難であることが判明した。そこで、in vivoのタイムラプス観察を行う前に、固定した小脳を対象に形態学的解析を行う。生後1-2日において、Nefl-EGFPマウスの一部の下オリーブ核ニューロンにRFP(tdTomato)と抑制性のDREADDを発現させ、一部のプルキンエ細胞がGFPを発現する登上線維とtdTomatoを発現する登上線維によって多重支配される状況を作る。生後4日から11日まで、1日1回のCNOの腹腔内投与によって、RFPを発現する登上線維の活動を抑制する実験系を開発する。コントロールとして、RFPのみを一部の下オリーブ核ニューロンに発現させたNefl-EGFP mouseを作製する。コントロールのNefl-EGFP mouseとRFPと抑制性のDREADDを発現させたNefl-EGFP mouseで、GFPを発現する登上線維との競合の様子を解析する。生後12日と15日にマウスを還流固定して小脳切片を作製し、共焦点顕微鏡を用いて登上線維の形態観察を行う。GFPを発現する登上線維が樹状突起を支配しているプルキンエ細胞と、逆にRFPを発現する登上線維が樹状突起を支配しているプルキンエ細胞に分け、それぞれの樹状突起への伸展の程度やそれぞれが支配する樹状突起の面積などを定量する。 登上線維とプルキンエ細胞の活動の同時計測は、プルキンエ細胞にGCaMP6f を発現する遺伝子改変マウスの一部の登上線維に赤色GECI を発現させたマウスを対象に行う。
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