研究実績の概要 |
重度熱傷などへの再生医療に用いられている培養ヒト表皮幹細胞は、自己複製を繰り返しながら、幹細胞コロニーを形成する。しかしながら、突如として幹細胞コロニー内に自己複製能を消失した異質な細胞が生まれる。このような異質細胞が出現した幹細胞コロニーでは、連鎖的に他の多くの幹細胞が分裂停止し、分化した分裂停止コロニーへと形質転換する。すなわち、均一な幹細胞集団内に生まれた一つの異質な細胞=シンギュラリティ細胞が、幹細胞集団そのものを消失させる。この異質細胞の出現は、再生医療の大きなリスクとなっている。異質細胞出現の機構は不明であるが、申請者らの研究から、異質細胞は細胞運動能が低下していることが明らかとなっている(Nanba et al., EMBO Mol. Med. 2013: Nanba et al., J. Cell Biol. 2015など)。
本研究では、深層学習による画像認識と、状態空間モデルによる物体追跡を組み合わせた新しい自動細胞追跡システム (Deep learning-based automated cell tracking: DeepACT)を開発することに成功した。このDeepACTを用いて、ヒト表皮細胞コロニーの個々の細胞の運動解析から、幹細胞コロニーに特徴的な細胞の運動パターンを同定した。さらに、速度の低下した異質細胞を非侵襲的に識別し、分裂停止に至るコロニーを事前に予測することに成功した。以上の成果を応用することで、異質細胞=シンギュラリティ細胞の出現機構の解明が期待される。
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