研究領域 | シンギュラリティ生物学 |
研究課題/領域番号 |
19H05430
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡 浩太郎 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (10276412)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | システム生物学 / バイオイメージング / 神経生物学 / 生命情報学 |
研究実績の概要 |
神経回路が成熟する過程において、神経回路の活動を支配する特徴的な神経細胞が見出されると考え、このような神経細胞をシンギュラリティ神経細胞と呼び、この神経細胞を特徴付けると共に、この神経細胞が生成するメカニズムを明らかにするために研究を進めたラット海馬神経細胞は、出生後から軸索や樹状突起が伸長し他のニューロンとシナプスを形成し、ネットワークを構築する。神経ネットワーク形成過程において、多くの神経細胞が同時に活動する「巨大脱分極(GDP : Giant depolarizing potential)」が観察されることが従来より知られている。 具体的な研究方法として、カルシウムイメージングにより多細胞の観察を行いネットワークにおける1細胞ごとの神経活動を計測した。細胞間の神経活動に相関があるとき両者には機能的結合があるとみなし、各細胞が持つリンク数を算出した。さらに、アデノ随伴ウイルスを用いて長期的な観察を行いシンギュラリティ神経細胞の形成過程を調べた。また、神経活動計測後に抗体染色を行い、機能的結合数と神経ネットワーク形成に関わるタンパクリン酸化度合いの関係を調べた。 海馬培養神経細胞は培養2週間前後で上述のGDPを示すようになり、機能的結合数と発火頻度は上昇した。カルシウムイメージングによる神経細胞の興奮計測から機能的結合を算出し、視野内におけるシンギュラリティ神経細胞を同定したところ、高出力性神経細胞は1回の活動で多くの活動電位を示すが発火頻度は少なく、高入力神経細胞は1回あたりの活動電位の数は他の神経細胞と差がないが発火頻度は多くなることがわかった。またGDPを示す前のネットワークでは、発火頻度とタンパクリン酸化の度合いは正に相関するが、GDPを生じるようになると無相関になった。また出力数とタンパクリン酸化に相関はないが、入力数とタンパクリン酸化は負に相関した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シンギュラリティ神経細胞を検出するための手法の確立に成功した。特に機能的神経活動を見出すためのソフトウェアの開発ができたこと、またアデノ随伴ウィルスを利用することにより、長期間に渡ってカルシムイメージングを行うことができたのは手法上の大きな進歩であると思われる。これらの手法により検出したシンギュラリティ神経細胞数が、培養初期の2週間の間に一過的に上昇することが判明したことから、培養期間のどの時期に絞って解析を進めれば良いかの指針を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の成果に基づいて、本年度は下記の項目についてさらに研究を進める。 (1)シンギュラリティ神経細胞の性状をさらに明らかにする これまでにハブニューロンと呼ばれるGABA神経細胞が発生の初期段階で神経活動を支配することが海馬神経系で知られるようになってきた。そこで我々が分散培養系で見いだしたシンギュラリティ神経細胞が、GABA神経細胞であるかをまず抗体染色法を利用して明らかにする。また我々の先行研究から、培養初期ではGABAは興奮性から抑制性神経伝達物質に変容することと、このGABAによる神経応答が神経回路の成熟にMgイオンを介して関与することを明らかにしている。そこでこのシンギュラリティ神経細胞の神経回路中での効果が興奮性なのか抑制性なのかを明らかにするとともに、細胞内Mgの関与について蛍光イメージングにより明らかにする。 (2)特定のリン酸化タンパク質とシンギュラリティ神経細胞形成との関係を明らかにする CREBおよびERKの他にさらにmTORなどの活性化をシンギュラリティ神経細胞において抗体染色法や蛍光イメージング法により調べる。これによりシンギュラリティ神経細胞の形成過程と、高頻度神経活動や他の神経細胞とのシナプス接続との関係を明らかにすることを進める。またこれらリン酸化過程と個別細胞のエネルギー代謝との関係について、新規なセンサーの開発を含めて進める。
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