老年性認知症病態の大半を占める凝集性タウタンパク質の脳内蓄積は神経機能障害や細胞脱落と密接に関連していることが知られているが、どのように生理的に微小管結合能を有するタウが自己凝集能を獲得し、病的なタウが特定脳領域より拡散・伝播するのか、その技術的特異点は明らかになっていない。我々は、ヒト家族性認知症で発見された変異型タウ蛋白質を過剰発現し、生後6ヶ月でタウ蛋白質病変に伴う脳萎縮、神経炎症を呈するタウオパチーマウスを用いて、生体イメージングによる病態発症メカニズムの解析を行ってきた。本研究では、タウ蛋白質相転移(正常から異常への変換点)が神経機能障害を引き起こす毒性の本体であると仮定し、神経細胞内で起こるタウ蛋白質相転移点をタウオパチーマウスの生体イメージング実験系を用いて明らかにすることを目的とした。これまでにタウ標識化合物[18F]PM-PBB3がアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、ピック病並びにrTg4510マウスのタウ蛋白質病変を陽電子放出断層撮像(PET)にて可視化できることを報告した(Tagai et al. 2021)。PM-PBB3はアルツハイマー病以外のタウオパチーにおいて高い検出感度で病態を可視化できることが特徴であり、凝集性タウ蛋白質線維に選択性の高い蛍光リガンドとしても活用できる。PM-PBB3の凝集性タウ蛋白質線維に対する結合特性を調べるため、クライオ電顕で得られた立体構造情報をもとにDocking simulationを行なったところ、特定のクロスβ構造に選択的に結合することが明らかとなった(Mishra et al. 2020)。これらの研究成果をもとに、初期のタウ蛋白質相転移を検出する上で特定の蛋白質立体構造が同定された場合、Docking simulationなどの計算技術が活用されることが期待される。
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