研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
20H04570
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
田 暁潔 筑波大学, 体育系, 特別研究員(PD) (60806983)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 牧畜民マサイ / 子どもと若者 / 身体活動 / 高跳び / 身振り / コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本公募班は、ケニア共和国南部の乾燥・半乾燥地域で暮らす牧畜民マサイを対象に、トランスカルチャー的な環境に生きるマサイがいかにして身体を表現・認識し、コミュニケーションを成り立たせるのかについて研究をしてきた。2020年度と2021年度は新型コロナウイルスの影響を受け、フィールド調査が実現できなかったが、調査地域の人々とネット通信を利用した交流を頻繁に行ってきた。その際、調査地域の状況確認やオンラインでできる聞き取り調査なども継続してきた。 これまでの調査は、主に、青年主役のマサイオリンピック、および子どもの学校生活と日常遊びに着目して、それぞれの状況における、コミュニケーションの成り立ちを支える身体活動の諸相を、学際的なアプローチから解明してきた。ここでの身体活動の諸相とは、青年の異なる生活の場における高跳び実践(adumu)のほか、遊びを代表する子どもの身体活動の全般を指すが、それぞれは生活の場における実践を重視ながらも、異なる視点と異分野連携によってその特徴を分析・議論してきた。 高跳び実践に関しては、身振りの個人的・対人的の特徴のほか、「マサイの伝統」ともされてきた高跳びの社会的・政治的背景にも目を向け、マサイと文化的他者をつなぐ高跳び実践の特徴を多側面から検討してきた。子どもの遊びに関しては、遊び実践を身体活動として捉え、運動疫学の視点から、その運動量と運動内容をはかった。それらの発見をさらに、マサイ社会における身体を用いたコミュニケーションの形成、および民族知識の生成と関連づけて議論をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を成り立たせるためには、長期なフィールド調査が不可欠であるが、新型コロナウイルスの影響を受け、フィールド調査が実現できなかった。一方で、同時期に、調査地となるマサイの村の人々も多くの生活変化を経験しており、現場へ行くことが実現できたとしても、予定通りの調査の実施が不可能であろう。そういったフィールド調査の不確実性がどの時代でも避けられないものとして捉え、それを乗り越えるための工夫を模索するため、調査地域の人々とネット通信を利用した交流、および国内外の異分野の研究者との研究連携の推進に力を入れた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、マサイ社会における人々の身振り、特に子どもと青年の身体運動と関連するものにおける対人的・社会的意味を検討してきた。それらは、これまでに言葉と知識を中心にして議論されてきた牧畜社会のコミュニケーションのあり方に、新たな視点と研究アプローチを提示することができた。今後の研究は、そういった身体運動を中心にしたコミュニケーション論、および知識生成論をさらに深めていくことが可能であり、牧畜社会における知識の継承と生成の議論を、さらに「身体」を軸にしてさらに検討していくことも可能である。 以上のほか、本研究のほう一つの特徴として、異分野間の連携による研究推進が挙げられる。以上の研究課題をさらに検討していくためにも、今後は、これまでに築かれてきた運動疫学、バイオメカニクス、心理学、及び行動学の諸分野の研究者との連携を大切にして、方法と理論の両方からの融合による学際的研究をさらに推進していく予定である。
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