本公募班は、ケニア共和国南部の乾燥・半乾燥地域で暮らす牧畜民マサイを対象に、トランスカルチャー的な環境に生きるマサイがいかにして身体を表現・認識し、コミュニケーションを成り立たせるのかについて研究をしてきた。2020年度と2021年度は新型コロナウイルスの影響を受け、フィールド調査が実現できなかったが、調査地域の人々とネット通信を利用した交流を頻繁に行ってきた。その際、調査地域の状況確認やオンラインでできる聞き取り調査なども継続してきた。 これまでの調査は、主に、青年主役のマサイオリンピック、および子どもの学校生活と日常遊びに着目して、それぞれの状況における、コミュニケーションの成り立ちを支える身体活動の諸相を、学際的なアプローチから解明してきた。ここでの身体活動の諸相とは、青年の異なる生活の場における高跳び実践(adumu)のほか、遊びを代表する子どもの身体活動の全般を指すが、それぞれは生活の場における実践を重視ながらも、異なる視点と異分野連携によってその特徴を分析・議論してきた。 高跳び実践に関しては、身振りの個人的・対人的の特徴のほか、「マサイの伝統」ともされてきた高跳びの社会的・政治的背景にも目を向け、マサイと文化的他者をつなぐ高跳び実践の特徴を多側面から検討してきた。子どもの遊びに関しては、遊び実践を身体活動として捉え、運動疫学の視点から、その運動量と運動内容をはかった。それらの発見をさらに、マサイ社会における身体を用いたコミュニケーションの形成、および民族知識の生成と関連づけて議論をした。
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