研究実績の概要 |
新生児においても認められるという表情模倣の脳内表象は、脳科学的にも重要な研究課題である。ヒトにおいて表情認知(顔)は、表情筋活動(身体)や情動伝染を誘発することが知られている。この視点から表情模倣は、「顔」と「身体」の融合した機能と捉えることが可能である。またFacial Feedback仮説は、表情の変化が自身の感情表現に影響を与えている可能性を示している。従って表情の変化自体が、扁桃体を含めた脳領域の活動に影響を与えていることも推測される。fMRI実験において表情認知は扁桃体を賦活するが、表情模倣時の結果はまだ一致していない。本研究では表情動画の呈示に続いて、表情を模倣している時の脳活動を以下の2つの群で調べた。1つは18名の健常被験者におけるfMRI実験で、2つめは6名の難治性てんかん患者における脳内電極脳波(intracranial EEG: iEEG)である。Facial feedback仮説によれば、模倣条件における表情筋や皮膚からの刺激が扁桃体活動を賦活することが予想された。fMRI実験の結果では事前予測の通り、表情認知時に加えて表情模倣時にも両側扁桃体が賦活された(p<0.001, uncorrected)。情動伝染尺度の愛情スコアと表情認知課題での両側扁桃体活動に強い負の相関がみられた。iEEG実験においても、概ねfMRI実験と類似した扁桃体の活動亢進が認められた。特にiEEGでは表情模倣時の刺激提示後500ミリ秒以降に、高ガンマ帯域において陰性・陽性表情に対する活動亢進が見られる特徴があった。これらの結果から表情模倣時にも扁桃体の活動は亢進し、それは顔面皮膚や筋肉からの扁桃体への刺激入力によることが示唆された。表情模倣は顔と身体の融合により、ヒトの情動形成に影響を与えていると考えられる。
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