研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
20H04578
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
稲垣 未来男 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (40596847)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 表情認識 / ニューラルネットワーク / Action Unit / 逆相関法 |
研究実績の概要 |
顔表情コミュニケーションには文化的な差異と普遍性の両方が存在する。本研究は、表情の種類や特徴に関する文化的な差異ならびに普遍性に対して、大脳皮質処理と皮質下処理がどのように影響するかの解明を目標としている。霊長類で特に発達した大脳皮質処理は、生まれた直後には未熟であり成長とともに周囲の環境を学習して高度に成熟する。一方、進化的に古い皮質下処理は大雑把ではあるが生まれた直後から機能している。大脳皮質処理と皮質下処理は異なる発達経過をたどることから、文化的な差異や普遍性の獲得に異なる貢献をする可能性がある。しかし、その解明には同時に並列的に働く2つの脳内処理の影響を切り分ける必要がある。そこで2つの脳内処理を独立した計算モデルとして構築することで別々に解析・比較する研究を行う。 今年度は大脳皮質処理のモデルに焦点を当てて研究を進めた。モデルの学習は使用した表情データベースへ適応するように進むため、異なる文化圏のデータベース間で表情特徴に違いがあれば、その違いはモデル内部に反映される。日本とヨーロッパの表情データベースを使い、それぞれ別の大脳皮質モデルとして学習させて両者を比較した。モデル内部に獲得された表情特徴を表情の構成要素(Action Unit)のパターンとして可視化するために、学習済みのモデルに対して、Action Unitをランダムに操作した多数の顔画像を入力して心理学的逆相関法を適用した。異なる表情データベースで学習させると反応するAction Unitパターンも変化することが分かった。提案手法は、表情データベースが内在する異なる文化圏での表情特徴の違いを分析する方法として利用できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、大脳皮質モデルと皮質下モデルの比較を通して、表情の種類や特徴に関する文化的な差異ならびに普遍性について、大脳皮質処理と皮質下処理がどのように関連するかの理解を深めることを目標としている。したがって、大脳皮質モデルの構築・解析と皮質下モデルの構築・解析を両方とも進める必要がある。今年度は、まずモデルの特性を解析するための方法を考案して実装した。次に実際に大脳皮質モデルへ適用して、うまく機能することを確認した。次年度は、もう一つのモデルである皮質下モデルへ適用してその特性を解析するとともに、2つのモデルの特性を比較することで表情の文化的な違いを考察する。当初の予定通りに順調に研究は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、表情の種類や特徴に関する文化的な差異ならびに普遍性を調べるため、異なる文化圏での表情データベースに注目して解析を進めている。現在のところ、日本とヨーロッパの2つの表情データベースを使って比較を行っている。理解を深めるためには、表情データベースの数を増やして、さまざまな文化圏のデータベース間で比較することが望ましい。モデルの構築や表情データベースの解析と並行して、世界で公開されている表情データベースの調査も進めていく。質と量を兼ね備えた複数の表情データベースを利用することで多様な文化圏の違いを調べていく。
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