顔表情コミュニケーションには文化的な差異と普遍性の両方が存在する。本研究は、表情の種類や特徴に関する文化的な差異ならびに普遍性に対して、大脳皮質処理と皮質下処理がどのように影響するかの解明を目標とした。大脳皮質処理と皮質下処理は異なる発達経過をたどることから、文化的な差異や普遍性の獲得に異なる貢献をする可能性がある。そこで2つの脳内処理を独立した計算モデルとして構築することで別々に解析・比較する手法の開発を行った。 実験では大脳皮質処理を深層型ニューラルネットワークとして、皮質下処理を浅層型ニューラルネットワークとしてモデル化した。表情ラベルのついたヨーロッパの顔画像データベースを使い、それぞれのモデルを教師あり学習により学習させて両者を比較した。モデル内部に獲得された表情特徴を表情の構成要素(Action Unit)への反応パターンとして可視化するために、Action Unitをランダムに操作した多数の顔画像を学習済みのモデルに入力して心理学的逆相関法を適用した。2つのモデルは表情識別を学習したが、一部のAction Unitで反応パターンが異なっていた。特に顔の上半分、目や鼻周りのAction Unitについて反応パターンの違いが見られた。これらの結果は、表情認識において大脳皮質処理と皮質下処理は顔の異なる側面を処理することを示唆する。本研究で提案・開発した手法により計算モデル間の比較が可能であることが分かった。異なる文化圏の顔画像データベースを学習に使い、モデル間の反応パターンの違いが文化圏に依存するのかどうかを検討することが今後の重要な課題である。
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