本年度は広西省のヤオ族・重慶の棒棒の人々を対象にした実験の結果,上下感情メタファー効果の欠如という知見を得,さらにそれを研究室で概念的に追試した。ヤオ族や棒棒の人々が日常的に重い荷物を高頻度で運搬していることから,負荷の大きい日常的な移動経験が上-快連合をキャンセルしている可能性を考えた。だが,5kgのパワーリストを日本・中国の大学生に装備させたラボ実験では有意な効果は生じなかった。また,九州大学において日本人の大学生を対象に,日常的に大きな重量を持ち上げるスポーツ選手とそうでない選手の間でメタファー効果がどのように現れるかを検討したところ,日常運動の種類(重量挙げ vs ランニング)の影響は極めて小さいものだった (η2G = .001)。本研究ではフィールドとラボでの循環という方法論的特徴を持ち味として掲げていたが,コロナ禍によってその両方を長期中断せざるを得ず,そんな中でなんとかデータ収集を続けてきた。今後,様々な制限が撤廃されれば,この教訓を活かしつつ再びフィールドワークと実験室実験の循環を構築したい。それに必要な方法論上の整理,マルチラボ研究,再現性についての考慮,出版関連の新機軸の開拓など,メタレベルで関連する研究を多く進めたので,これらを今後の研究につなげる所存である。
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