縄文時代~弥生時代の土器にしばしば認められる顔面や手足などの身体装飾をもった土器を「顔身体土器」と呼称して、その出現背景をモデル化するのが本研究の目的である。特に、本学術領域で示された「トランスカルチャー状況」という社会背景に出現するという仮説の検証を意図した。顔・身体という目立つ装飾が社会的にいかなる意味を持っていたのか。全体会議を続ける中で、本領域では唯一歴史的な視点で検討するという意義や、人間の顔ではなくモノに表現された顔がいかなる意味を持っていたのかという点でも顔身体学全体で不足している部分を担っているという領域内での位置づけを確認した。 本年度までに、縄文時代後期、晩期の主要資料を集成し、出現背景を含む一定のモデルを作成した結果、顔身体土器の出現が一般の土器なども地域間で流動的になる時期に合致する可能性を確認し、各地の文化が混在する状況を想定しえた。また、顔身体土器の関連資料として、儀礼用の異形土器や性象徴に関わる大形石棒の検討も進めた。 以上の成果は『季刊考古学』での短報、研究代表者がコーディネートした考古学研究会東京例会の口頭発表、千葉県下ヶ戸貝塚例を起点とした報告書論考などに部分的に発表しているが、期間内に調査できなかった詳細未報告資料の図化・3D化データとあわせて、今後総括的な論考を計画している。 但し、コロナ禍で十分な現地調査ができなかったものの、数点については3Dデータを作成し、実測図も作成した。また、本学術領域計画班の心理学者や、新学術領域「出ユーラシア」の他地域を専門とする考古学者と顔身体土器の比較研究に関する検討会を開催し、今後の共同研究への足掛かりを得た。次年度以降、3Dデータを用いた顔身体装飾に対する認知などを含めた共同研究を計画予定である。
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