研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
20H04594
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
小池 耕彦 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 助教 (30540611)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コミュニケーション / パーソナルスペース / 距離感 / 二者間の行動同期 |
研究実績の概要 |
対面コミュニケーションでは他者と直に相対するが,その際に「どの程度の距離で接するか」はコミュニケーションを成立させるのに,二者間の物理的な距離は非常に重要なファクターである.コミュニケーションで「ここまでは近づいて良い」という距離はパーソナルスペースと呼ばれるが,この定量的な評価方法は無い.本研究では,社会的な場において他者の存在により受ける「力」として,パーソナルスペースを定量的に評価する方法を開発する.
初年度計画として,二者で数十cmの顔間距離まで接近しておこなうOkazaki et al. (2015)と同様の実験計画により十分な新規データを取得し,そのデータをシミュレーションに回すことを想定していた.しかしこの実験は,COVID-19下のではおこなうことは不可能であった。そこで、Okazaki et al. (2015)の未公刊データについて解析をおこなった。他者に近づいてほしくない距離感は、他者が偶然、もしくは自分に対する働きかけの意図を含まずに近づいてきた場合(例:道で横を通り過ぎる場合)と、何らかの働きかけの意図を持って近づいてきた場合(例:目を合わせて近づいてくる場合)によって異なることは予想される。実験参加者はパートナーと視線を合わせて相手のことを考えて起立する条件(他者注意条件)と、視線を合わせてはいるが、視覚的注意は周辺視野に提示される視覚刺激に向ける条件(他者非注意条件)との2条件をおこなった.このデータを用いて,起立している際の二者間の距離(パーソナルスペース)を測定した。解析の結果、他者注意条件では非注意条件と比較してパーソナルスペースが狭かった。この結果は、他者との距離感は自動的に計算されるものではなく、他者とのかかわりあいの意図によって変動する可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初に想定していた実験計画,二者で数十cmの顔間距離まで接近しておこなうOkazaki et al. (2015)と同様の実験計画は、COVID-19下の現在ではおこなうことは不可能である。そこで、Okazaki et al. (2015)の未公刊データについて解析をおこなった。他者に近づいてほしくない距離感は、他者が偶然、もしくは自分に対する働きかけの意図を含まずに近づいてきた場合(例:道で横を通り過ぎる場合)と、何らかの働きかけの意図を持って近づいてきた場合(例:目を合わせて近づいてくる場合)によって異なることは予想される。申請者らが過去に記録したデータのうちで、未発表のデータを用いて、この点について検討をおこなった。このデータでは、実験参加者はパートナーと視線を合わせて相手のことを考えて起立する条件(他者注意条件)と、視線を合わせてはいるが、視覚的注意は周辺視野に提示される視覚刺激に向ける条件(他者非注意条件)との2条件をおこない、起立している際の二者間の距離(パーソナルスペース)を測定した。解析の結果、他者注意条件では非注意条件と比較してパーソナルスペースが狭かった。この結果は、他者との距離感は自動的に計算されるものではなく、他者とのかかわりあいの意図によって変動する可能性を示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の状況によるが、少なくとも本年度前半は、近接した距離で実際に対面して1分間の起立状態を維持するという先行研究の実験条件(Okazaki et al., 2105)を再現することは不可能と思われる.本年度も、(1)先行研究に付随して計測したデータを用いた再解析、および倒立単振子モデルを用いたシミュレーションを優先しておこなう。 (1)データの再解析:他者に近づいてほしくない距離感は、「他者」が自分とどのような関係があるかによって変化する。たとえば、相手に対して好意を抱いている場合には、そうでない場合と比較して、距離感は短くなるだろう。申請者らが過去に記録した未発表データのうちで、二者間の関係性をコントロールした実験データを用いて、この点について検討をおこなう。この解析により、パーソナルスペースが他者の侵入を拒絶する効果が、他者の属性や行動意図を全く無視した完全に自動的な現象なのか、それともそれらを勘案したミニマムなコミュニケーション行動であるかを検討することが可能となる。(2)倒立単振子モデル:剛体の棒が地面に接地した,いわゆる「倒立単振子」として身体をモデル化する作業からスタートする(笹川,2015,バイオメカニズム誌).ヒトの立位状態は膝や腰,脊柱や頭といった多くの関節を通してコントロールされているが,倒立振子のように極度に単純化されたモデルであっても,ヒトの立位状態をよく説明できることが知られている(野村ら, 2010, バイオメカニズム誌).このモデルを用いて、申請者らの先行研究(Okazaki et al., 2015)における,個人での立位条件および対面での立位条件の結果をモデルで再現する研究を継続する。(1)で検討する、他者に対する注意の効果をモデルに取り込むことを目指す。
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