研究領域 | トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現 |
研究課題/領域番号 |
20H04595
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
和田 真 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (20407331)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 顔 / 多感覚統合 / 身体性 / 自閉スペクトラム症 / 発達障害 |
研究実績の概要 |
本研究では、自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder, ASD)者における顔認知の時空間的な特徴と、身体等のコンテクストとの関連性を明らかにし、ASD者とTD者の間で生じているコミュニケーションの問題の基盤を探る。そのうえで「トランスカルチャー」な意思伝達をサポートするデバイス開発等の支援につなげていくことを提案する。以上の目的のため、認知神経科学的な研究や調査研究を実施する。 昨年度は、顔認知や身体認知に関連した複数の心理物理実験を実施した。まず顔認知に関する実験では、表情認知の時間特性を調査した。まず一定時間内に表示される真顔と感情顔の割合を変動させ、感情価ごとの応答を記録した。その結果、感情価の評価についても時間的なアンサンブルが成立することが明らかになったが、怒り顔についてはそれが弱いことがわかった。また自閉傾向や共感化・システム化傾向との関連を調査した。さらに表情認知における時間的な近接性の影響も調査し、時間的アンサンブルは成立するものの、近接性の影響も大きいことを示した。上記の実験の際には、瞳孔径・視線方向の計測も行い、覚醒度や注意との関連を調査した。以上の研究成果を学会発表するとともに、論文に取りまとめて投稿した。なお、年度後半からは、診断を受けたASD者を対象とした実験も行い、年度末までに10名での計測を行った。一方、身体性の評価では、見えない状態で指先等の位置を判断させる課題を実施し、自閉傾向や共感化・システム化傾向との関連を調査した。Longoらの先行研究と一致した身体表象の異方性が観察された一方で、ASD者での多様性が示唆された。 以上のように、感染症対策に十分にしつつ、顔認知・身体認知に関する心理物理を実施し、結果を解析するとともに、得られた知見について、どのような支援への応用が可能か、ニーズを探りつつ検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画にもとづいて、令和2年度は、顔認知・身体認知に関する心理物理を実施し、自閉傾向等との関連を探った。顔認知に関する実験、身体認知に関する実験のそれぞれで、年度末の時点で定型発達者30名以上、ASD者10名の参加をいただいており、非定型的な特徴が明らかになりつつある。特に、表情認知の評価については、いずれの感情価においても時間的アンサンブルが生じるものの、怒り表情では、それが弱まる傾向が明らかになった。しかも自閉傾向との関連も明らかとなり、ASD者ではより顕著な違いが示唆されている。研究成果は、すでに基礎心理学会・認知心理学会・日本生理学会解剖学会合同大会において発表するとともに、論文に取りまとめて投稿済みである。また、本実験の成果をもとに具体的な支援手法の開発についても検討しており、計画は順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウィルス感染症の流行状況を留意しつつ、十分な安全配慮のもと当初計画にもとづいて研究を進める。表情認知・身体認知の研究の両方について、ASD者での計測を進める。表情認知について、その時間的変化の効果について、さらに検討を深め、新規に心理物理実験を行う。身体認知については、引き続き手の身体表象の多様性を調査するとともに、道具等による身体拡張について自閉傾向と関連した多様性を調査する。その上で、聞き取りやWEB調査等を踏まえて日常生活上の困難との関連を調査する。瞳孔径・視線を中心に生体計測も行い、覚醒度や注意といった生理・認知指標との関連も考察する。さらに、前年度から検討を進めていた支援手法への応用についても、具体化させ、検証のための実験を計画する。以上の研究・開発を通じて、表情認知と身体認知の個人差に合わせた支援手法や支援開発への発展を目指す。
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