研究実績の概要 |
本研究では、自閉スペクトラム症(ASD)者における顔や身体認知の時空間的な特徴を明らかにし、ASD者と定型発達者(TD)者の間で生じているコミュニケーションギャップの基盤を探る。 顔認知に関して、表情認知の時間特性を調査した。一定時間内に表示される真顔と感情顔の割合を変動させ感情価ごとの応答を記録する実験では、TD者では、比率に応じた判断が可能であった反面、ASD者の多く(ASD者20名のうち16名)では、怒り表情に関して提示比率に依らず一定の評定となってしまう傾向が示された。さらに表情の時間的な変化が認知に与える影響も検討した。その結果、表情が怒り顔へ変化するときは、素早い変化が認知を強めることがわかった。これらについて瞳孔径や視線行動との関連も解析を進めた。TD者に関する成果を論文発表するとともに(Harada et al., 2023)、ASD者に関する結果について取りまとめを進めた。また、顔に向けられた視線行動について、繰り返しの提示により視線方向の情報利用が進む可能性について論文発表した(Fukui et al., 2021)。 身体認知に関しては、指先位置の判断を行わせ自閉傾向との関連を調査した。Longoらの先行研究と一致した異方性が観察された一方、自閉傾向との明らかな関連は見られず、診断を受けたASD者との比較でも有意な群間差はみられなかった。一方、手の縦横比そのものとシステム化傾向との関連が示唆されたため、追加の調査を実施した。加えて、身体表象が視触覚の時間順序判断に及ぼす影響や、触知覚の予測・推定に対する自閉傾向の影響について論文発表を行った(Umesawa et al., 2022; Wada et al., 2022)。 以上のように、顔認知・身体認知に関する心理物理実験を実施し、得られた知見から示唆される新たなコミュニケーション支援について検討した。
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