研究領域 | 和解学の創成-正義ある和解を求めて |
研究課題/領域番号 |
20H04600
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小倉 紀蔵 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (80287036)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 尊厳 / 和解 / 日韓関係 / 歴史 / 人権 / 暴力 / 併合植民地 |
研究実績の概要 |
本研究は、戦後日韓関係の歴史的事実のなかから「尊厳概念」を析出し、それが両国社会の相互の対立や摩擦や宥和のなかでどのように変遷し、構築されてきたのかを分析するものである。問題意識の出発点として、戦後日韓関係は両国社会がともに「尊厳概念を成長させてきた実践の過程であったのではないか」という問いがあった。 わたしが加わっている別の科研「尊厳概念のグローバルスタンダードの構築に向けた理論的・概念史的・比較文化論的研究」(基盤研究S:研究代表者・加藤泰史)の成果として、「尊厳と歴史・・・戦後日韓関係の思想から」(『尊厳と社会(下)』法政大学出版局、2020、所収)および「暴力としての歴史認識」(『東アジアの尊厳概念』法政大学出版局、2021、所収)という2本の論文を書いた。前者は慰安婦問題に関して、後者は歴史認識という行為そのものに対して、それぞれの暴力性を指摘し、批判するというものである。戦後75年以上の時の流れのなかで、暴力性はかつての加害者だけでなく、かつて被害者だった側にも認められる。 歴史を生きる個人とはなにか。「個人があらかじめ存在して、その個人が歴史を生きる」という世界観においては、「人権」という概念が有効である。人権はいかなる個人も持っており、それが蹂躙されてはならない。そのことは、あらゆる社会における基本的条件として保障されるべきである。しかし、「社会や歴史に生きる〈いのち〉が、個人として析出されてくる」という世界観においては、人権とは別の概念、つまり尊厳という概念のほうが重要なのではないか。 日韓関係の現場のなかから、そのような尊厳概念を抽出し、それを和解という観念にまで結びつけるのが、今後のしごとである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アウトプットとして、これまで、「尊厳と歴史・・・戦後日韓関係の思想から」(『尊厳と社会(下)』法政大学出版局、2020、所収)および「暴力としての歴史認識」(『東アジアの尊厳概念』法政大学出版局、2021、所収)という2本の論文を書いた。だがこれは、「尊厳」概念の再構築をめざす他の科研における本人の業績とみなすことができるので、本科研独自の成果はまだ論文になっていない。 まず最初の1年間で、東アジアの儒教・仏教を中心とした伝統思想における人間・尊厳・和解概念を研究した。それに加えて、西洋近現代における人間・尊厳・和解概念を幅広く考察した。この理論的作業に膨大な時間がかかっている。第2年度目には、独自性のある尊厳・和解概念を構築したい。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の変更はないが、本研究においては理論構築と事例探求の両軸が重要であるにもかかわらず、第1年度目には前者にほとんど重点を置いて探求し、またその成果を論文化できていないので、これの完成を急ぐ。 他方で、「戦後日韓関係は両国社会がともに尊厳概念を成長させてきた実践の過程であったのではないか」「戦後日韓関係の試行錯誤の過程は、肯定的な面・否定的な面を合わせて、両国社会が世界に率先して実践・蓄積してきた貴重な共同財産である」という研究上の認識に関しては、すでに単行本になるような原稿を書き上げることができている。主に、歴史認識をめぐる日韓両国の暴力性に関して、慰安婦問題、嫌韓問題などを中心として考察した原稿であり、暴力の応酬を乗り越え、相互の和解にいたるためにはどのような認識を持つ必要があるのか、について主題的に論じた。この原稿に関しては、すでに出版社も決まっており、刊行の約束もできている。これを完成させ、第2年度内に刊行することを目指している。
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