公募研究
太陽系の外惑星領域では、表層が氷に覆われた衛星が数多く存在する。氷は水に浮くため、表層が凍っていても内部には融けた領域が存在する可能性があり、内部海と呼ばれている。人工衛星による観測などによって、内部海が存在すると考えられているものにエウロパやエンセラダスなどがあるが、このうちエンセラダスでは内部海の物質が噴き上がる様子が観測されている。この様な噴出活動は氷火山と呼ばれている。さて、この様な内部海の物質は純粋な水ではなく、塩類が溶け込んだ塩水であると考えられている。衛星内部は高圧力の環境であるので、塩水の物性を高圧力下で調べることは内部の分化や氷火山活動を理解するうえで重要である。本研究課題は、我々がこれまで開発した粘度測定装置を使用して衛星内部海の塩水溶液の粘度を測定して衛星内部海のダイナミクスを議論することを目的としている。2020年度は硫酸マグネシウム水溶液を試料として、衛星内部海環境の高圧力下で粘度測定を行った。高圧力の発生にはダイヤモンドアンビルセルを使用し、試料と石英ガラス球を入れて球が液中を落下する様子を観察した。落下の様子を拡大光学系で撮影し、落下速度からストークスの式を用いて粘度を得た。これまで、衛星内部海に関する議論は純水のデータなどが用いられてきたが、本研究の結果、高圧力下での衛星内部海の粘度は純水の粘度よりもおよそ1桁高くなることが明らかとなった。1桁高粘度になった場合、内部海の対流速度や対流パターンが変わり、熱輸送に大きな影響を与えることが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
今年度は高圧力下での塩水溶液の粘度測定技術の開発も並行して進めた。まず、高圧顕微鏡セルを導入し、精密な圧力制御と圧力測定ができる高圧ハンドポンプを導入して、本研究の圧力範囲では比較的低い側の圧力で精密な圧力制御と正確な粘度および圧力測定ができるようにした。これにより、ダイヤモンドアンビルセルを使用した高圧側での実験との整合性を確認できるようになった。また、高圧セルを取り付ける回転ステージをPCでコントロールできるようにした。その結果、落球粘度測定の繰り返し実験が効率よく行えるようになった。さらに、冷却水循環水路の断熱性を改良して実験下限温度を下げることに成功した。以上の装置開発によって、氷衛星内部環境の高圧力下で衛星内部海の塩水溶液の粘度測定を可能にした。また、この装置を使用して実際に硫酸マグネシウム水溶液などの衛星内部海物質の粘度測定を行った。特に問題なく粘度測定を進めており、概ね順調に進展している。
近年の惑星探査によると衛星内部海には塩化ナトリウムが含まれることが分かった。また、遠方の外惑星の衛星内部海にはアンモニアが含まれる。今後はこれらを含む水溶液の粘度測定を衛星内部海環境の高圧力下で行う。複数の成分が含まれる液体では、それを構成する分子の結合が切れる場合もあれば、複雑に絡み合う場合もある。結合が切れる場合は粘度が下がり、結合が増える場合は逆に粘度が上がる。多成分系の水溶液でどの様な粘度変化をするかを知ることで、液体の構造に関する理解も進むことが考えられる。また、得られた結果を基に氷衛星内部の進化過程を考察する。衛星の形成初期は集積のエネルギーや短寿命の放射性元素の働きで内部は融けていたと考えられる。時代とともに固結が進んできたが、内部海の粘度は熱対流をコントロールするため熱輸送に大きな影響を与えるので、粘度次第で内部の進化が変わってくるであろう。また、圧力によって液体の構造が変化するため、粘度も変化すると考えられるので、本研究で衛星内部海環境の高圧力で粘度を実際に測定することは衛星内部の進化を議論する上で重要である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 13件) 備考 (1件)
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