研究領域 | 水惑星学の創成 |
研究課題/領域番号 |
20H04606
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小河 正基 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30194450)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 火星 / プルーム火山 / マントル対流 / 脱ガス / マントル進化 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
本年度は、火星内部の四段階進化モデルを構築し、特に火山活動による水の脱ガスが火星の表層環境にどのような影響を及ぼしたかを検討した。 この四段階進化モデルとは以下のようなものである。第一段階は最初の数千万年間であり、この時、大規模な火山活動により地殻が形成され、またマントルが化学成層する。この化学成層のため、次の第二段階では数億年にわたりマントル対流も火山活動も起らない静穏期が訪れる。しかし、この静穏期にマントル深部では内部発熱のため温度が上昇し、やがてプルームによる火山活動が始まる。このプルーム火山が起こる時期が第三段階であり、この時、それまでマントルに保存されていた水が大気に放出される。また、この火山活動はマントルを攪拌・混合すると同時に、マントルの活動のエネルギー源である放射性元素を地殻に濃集する。このマントルにおけるエネルギー源の欠乏により、やがてプルーム火山活動は衰え、第四段階では完全に停止し、マントル対流は熱対流として起こるようになる。 ここで注目されるのは第三段階のプルーム火山活動とそれによる水のマントルからの脱ガスである。このプルーム火山活動は、火星で40-35億年前頃に盛んに起こったホットスポットの火山活動と整合的である。また、計算された脱ガス量は、近年、急速に研究が進展している火星大気の温室効果の見積もりと照らし合わせると、火星表層に温暖な環境をもたらすのに十分なものであった。この結果は、35億年前頃に火星表面で実現した温暖な環境を説明するものである。さらに最近、過去に火星表面に存在した水の量の収支を見積もるという研究が盛んに行われているが、第三段階の脱ガスはそこで推定されている内部からの水の供給を十分まかなえるだけのものであることも確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、初年度にマントル進化のモデルを構築し、特に火山活動によるマントルからの脱ガス率を見積もり、計算された脱ガス率を用いて、次年度に火星大気のモデルを用いて自分で温室効果の強さを評価し、表層環境の推定を行う予定であった。ところが、2021年に入り、世界的に火星表層環境の研究が飛躍的に進展し、内部からの水や二酸化炭素の脱ガス量が与えられれば、改めて温室効果の評価を行わなくとも表層環境を予測できるまでになった。このため、これらの研究と本研究で得られた水の脱ガス率を照らし合わせることにより、初年度のうちに、おおよその火星表層環境史の推定ができるまでに研究が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、火山活動によりマントルから放出されるガスの成分は水だけであるとした。しかし、大気の温室効果の評価にとって重要なのは、二酸化炭素と水素であることが近年明らかになりつつある。このうち、水素の脱ガス率はマントルの酸化・還元状態を仮定すれば水の脱ガス率から見積もることができるが、二酸化炭素の場合は、水とは独立な揮発性成分としてその循環や火山活動による脱ガスをモデル化する必要がある。今後は、この水と二酸化炭素の二つの揮発性成分の循環・脱ガスを考慮したマントル進化モデルを構築し、最終的な火星の表層環境史のモデル化につなげていく予定である。
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