火成活動を伴うマントル対流のダイナミクスを数値シミュレーションにより探求し、火星のマントル進化に応用した。その結果、以下の二つの経路を経由する火成活動・マントル湧昇流フィードバックが火星のマントル進化において重要な役割を果たした可能性が高いことを指摘した。 (1)マントル湧昇流がマグマを生成すると、そのマグマの浮力がさらに元の湧昇流を加速する。 (2)マントル湧昇流の結果生じたマグマが浸透流としてマトリックスから分離すると、これによって起こるマトリックスの体積変化が対流運動を起こして、その湧昇流が元のマントル湧昇流を加速する。 この火成活動とマントル湧昇流の間の正のフィードバックの結果、火星のマントルは4つのステージで進化することが、本研究から推定された。(第一ステージ)(1)および(2)のフィードバックの結果マグマ・オーシャンの冷却期に激しい対流運動が引き起こされ、この結果、地殻が形成されマントルは組成的に成層する。(第二ステージ)第一ステージの組成的成層のため、マントル対流も火成活動も起らない静穏な時期が数億年間続く。(第三ステージ)マントル深部が放射性元素による内部発熱のため部分溶融し、(1)のフィードバックによりパルス的にプルーム火山活動が起こる。(第四ステージ)第三ステージのプルーム運動によりマントルは撹拌・均質化され、内部発熱の減衰とともに火成活動も収まり、マントル対流はより熱対流に近いものになる。この第三ステージの火山活動は、実際に火星のノアキス・ヘスペリア期に見られる火山活動をよく説明し、また、この火山活動によるマントルからの脱ガスにより、火星表面には実際に観測される量に匹敵する水が供給され得ることがわかった。ただ、この火山活動をもってしても、火星の表層環境を温暖に保つために必要な量の二酸化炭素は供給できないことがわかった。
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