研究実績の概要 |
2020年度は微小量のリュウグウ試料から微量元素濃度・放射起源同位体・安定同位体の測定を行うための技術を立ち上げた。2020年度当初は、実際に使用可能であるリュウグウ試料の総量が不明であったため、まずは30 mgの試料を使用可能であると仮定し、試料の酸分解、イオン交換法による化学分離、ならびに表面電離型質量分析計を用いたCr同位体比の分析法を立ち上げた。試料はHF・HNO3で分解したのち、最終的にHBrに溶解した。この溶液の一部(約1%)を分取し、2つに分けた。片方は硝酸でアタックすることにより、難溶性フッ化物を除去し、0.5M硝酸に溶かしてREEなどの存在度を測定した。もう片方はHFに溶解し、HFS元素の存在度をICP-MSで測定した。このようにして2グループに分けて元素存在度を測定することにより、難溶性フッ化物による微量元素の共同沈殿を避けながら存在度を正確に分析できることが分かった。 次に、イオン交換クロマトグラフィーによる元素分離では、17元素を単一バッチから一切の無駄なく相互分離する方法を立ち上げた。まずPbを分離し、その後、陰イオン交換樹脂でHFS元素(Ti, Zr, Hf, W, Mo)を主成分元素から分離した。主成分元素のフラクションからFeとUを分離したのち、Sr, Ba, REEの分離を行った。次にCaとCrの分離を陽イオン交換樹脂により行い、最終的にMgとNiを分離した。 表面電離型質量分析計を用いた同位体分析では、2μgのCrを用いたダイナミック法により、53Cr/52Cr、54Cr/52Cr比をそれぞれ10 ppm、20 ppmの誤差(2SD)で測定することに成功した。最終的にリュウグウアナログ試料として4つの炭素質コンドライトのTi, Cr同位体比を測定し、先行研究と調和的な結果を得ることに成功した。
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