エウロパでの放射線バースト環境下での氷の光学的変化を調べるため、K-Na-Cl、ジオポリマー、および氷の結晶に対して、本学ETIGO-IIIのパルス電子ビームおよび量研機構一号加速器の定常電子ビームにより照射を行った。ETIGO-IIIにおいては、ピークエネルギー2MeV、電流1kA、パルス幅100nsの電子ビームを、室温および液体窒素温度にて3回照射した。フィルム線量計で測定した線量は、1ショットあたり平均7kGyであった。室温照射後の氷の光学顕微鏡写真から、平均直径175μmの気泡が発生したことが分かった。この結果から、パルス電子線照射により、室温では可視光波長より大きな気泡を生じうることが判明した。 気泡の発生原因について考察を行った。氷中の水素や酸素原子のはじき出しエネルギーを8-46eVと仮定して、キンチンピースモデルによりはじき出し損傷関数を計算したところ、0.14-0.35×10^-2であると推察された。一方、気泡の平均直径と間隔から見積もった気泡の体積割合はこれより1桁大きい4.7x10^-2であった。このことから、発生した気泡は、既報の論文で示されているように空孔が再結合したボイドではないことが判明した。また、パルス電子ビーム照射では局所温度上昇することが示唆されている。これにより水分子が蒸発しても、潜熱が除去され次第氷中では凝結して気泡は存在できないことが示唆された。 次に放射線分解の可能性を検討した。放射線が水に入射すると、放射線分解によって水素と酸素分子が発生することが知られている。また、これらの再結合には温度が必要である。このため、0℃の氷中では再結合が阻害され、水素と酸素分子の気体の圧力により気泡が発生したと考えられた。 上記の実験結果と考察から、本実験条件では、パルス電子ビーム照射により氷の光散乱が増加すると示唆された。
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