研究領域 | 水惑星学の創成 |
研究課題/領域番号 |
20H04614
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
平田 直之 神戸大学, 理学研究科, 助教 (00791550)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 氷衛星 / 内部海 / テクトニクス |
研究実績の概要 |
土星や木星の氷衛星は内部に液体の水からなる内部海を持っているとされ、これらの氷衛星の内部海も生命誕生の場として有望と見なされている。これら氷衛星の内部状態の推定のために、土星中型衛星ディオーネおよびレアのWispy構造と呼ばれる正断層地形に着目する。衛星内部の温度変化、内部海の凍結などによって体積が変化すると、表面に正断層性の地溝帯が形成されることが知られている。そのためこれらの各地溝帯の形成年代や、形成時に衛星がどの程度の体積が膨張したかを定量的に推定することができれば衛星の内部の温度変化量や、内部海の規模の推定に一定の制約を与えることができると考えられる。そこで土星探査機カッシーニー画像データを解析し、土星中型衛星の表面にある正断層性の地溝帯を調査した。今年度の作業によって土星衛星ディオーネ・レアの地形状の解析が進展した。新規に作成されたDTMは過去のものと比較しても10倍を超える高い精度を有しておりこれらのDTMではWispy地形が極めて明瞭に見えている。DTMの簡易な調査によるとおおよそ衛星ディオーネの全周が1-2㎞程度伸びたことが明らかとなった。これは衛星の半径に換算すると、200-400mほどディオーネが膨張したことがわかる。次年度以降はより精度の高いディオーネの膨張の計測を行う。またレアの解析を進めレアの膨張量の測定を行う。これらの膨張度を、衛星の熱進化モデルに内挿することによって熱進化史に制約をあたえ国際学会誌にて論文を投稿することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作業は以下の4段階で進める計画であった。(1)画像データと探査機位置姿勢情報の収集と整理。(2)リモートセンシング画像解析。具体的には、地形状の解析と探査機の位置・姿勢情報の高精度を行う(位置合わせ、形状解析)。(3)各フライバイごとのモザイク作成とそれをつかった断層とクレーターの層序判定。(4)断層面の幾何学的な解析による衛星の膨張した体積を推定する。前年度において、(1)(2)の過程を完了することができた。画像データを収集し、おおよそ300枚ほどの画像データが撮像条件・解像度・断層地形の視認性といった観点で解析に有用であることがわかった。そして、これらの画像から、天体地表上の目立つ特徴点を数千点ほど選び出し、各点が各画像の画像面座標のどこに写っているのかを結びつける作業を行い、探査機・天体の位置情報の高精度化を行った。さらに、地形状解析を行い、画像間の微かな視差を利用することによって、天体表面の標高を計算した。この作業によって、断層面の幾何学的な形状を明らかにすることができた。新規に作成されたDTMは過去のものと比較しても10倍を超える高い精度を有している。これらのDTMでは過去のものと比べてもより明瞭に断層地形が見えており、ここから100m規模の断層構造が存在していることが見て取れる。これら高精度の形状モデルを用いると、おおよそ衛星ディオーネの全周が1-2㎞程度伸びたことが明らかとなった。これは衛星の半径に換算すると、200-400mほどディオーネが膨張したことでできたことが推定される。
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今後の研究の推進方策 |
前年度のディオーネの作業については前節の(1)・(2)が完了し(3)が一部始まっている段階である。前節の200-400mほどディオーネが膨張したという結果は初期の解析結果に基づくものであり、今後は前年度に作成したDTMをより詳しく解析することでディオーネの膨張度をより精密に測定する(換言すれば前節の(3)(4)の過程を実施する)ことを目指す。またディオーネに比べるとレアはまだ比較的解析が進んでいない状況である。具体的にはレアについては前節の(2)の作業の途中であるので、今年度はレアの残りの作業を推進する。また各地溝帯の形成年代についても切った切られたの関係を用いることで推定したい。ディオーネ・レアの精密な測定結果と年代推定を、土星氷衛星の内部熱進化モデルに内挿することにより、衛星の熱進化史に制約を与えるとともに、氷衛星一般の進化や内部海の安定性についてのより深い理解につなげたい。また同一分野の理論系の研究者と共同研究・セミナーを開くなどして、観測結果の価値を最大化する取り組みを行いたい。これらの作業を経たうえで研究成果を国内外の学会講演や国際学会誌での出版・公表を通じて、同一分野の研究者に対して発信し、成果を社会に還元する。また社会・国民にできるだけ分かりやすく説明するために、個人のウェブサイトやプレスリリース等を用いて、成果を発信するとともに折に触れて水惑星(液体の水からなる内部海を含む)の面白さを国民に発信していく努力をしていきたい。
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