研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
20H04622
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
景山 義之 北海道大学, 理学研究院, 助教 (90447326)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 散逸構造 / 対称性の破れ / 非線形現象 / 帆立貝定理 / エネルギー変換 / アクティブマター / 超分子モーター |
研究実績の概要 |
この研究では、アゾベンゼンの可逆な光異性化反応と、そのアゾベンゼンを含有した結晶の異性体比変化が惹起する構造相転移が連携することで実現された、結晶の時間周期的な構造変化を伴った自己組織化構造について、その力学的形態変化を離散数学によって解析する。これにより、ミクロの分子モーターによってマクロな自律的巨視的変化を生み出す仕組みを明らかにするとともに、その実現に必要な要件の明確化、および新規自律運動材料の設計指針を生み出すことを目的にしている。 本年度は、まず、散逸自己組織化の材料科学的意義を明示することを目的とした数値計算研究を、Matlabソフトウェアを用いて行った。化学系における振動現象は、対象が破れた非線形現象の組み合わせで実現されることを、三つの自触媒反応が連携する化学反応をモデルにすることで示した。振動現象において、系内(物体内)で化合物のモル分率が周期的に変動しており、それに伴い系の自由エネルギーも周期的に変動することを示した。自由エネルギーの貯蔵・放出過程が周期的に起こることから、散逸自己組織化された材料が、「まとまった量のエネルギーを変換できる」材料であることを示した。この成果はSymmetry誌に招待論文として掲載された。 当該の結晶は、上述のエネルギー変換によって力学的仕事ができる。実際、ミクロな結晶は、水中を粘性抵抗に逆らって泳ぐことができた。この挙動に働く力学を、化学的実験と離散数値計算から明示することを目指した。しかしながら、結晶の往復的な振動運動によって方向性の遊泳が実現できる仕組みの明示までには至らず、次年度への継続課題になった。 この他、結晶を小さな領域に分けて、その領域間に相互作用を設定すること、および領域の安定曲率が領域内の相転移状態によって変化するというモデルを設定することによって、実際に観察されたような振動を示す結晶の数理モデルを組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、研究当初からの新型コロナウィルス感染症の影響を受け、外国人博士研究員の採用が困難になった。結果、研究実績概要の最後に記した「結晶の形状の変化を数理モデル化する研究」のスタートが遅れた。これについては、研究(研究費)の繰越で対応することにし、繰越期間中での研究で遅れを取り戻した。繰越期間中には、研究支援者として技術補助員や技術補佐員に加わって頂き実験系の研究を補助して頂いた。これにより、研究代表者自身が数理モデル化の研究により多くのエフォートを充てられるようになった。 結果として、繰越期間内に数理モデル化の研究は十分に進むことになった。成果に係わる論文も、近い将来、出版されるであろう。一方で、他欄にも示すが、数学的には解けても、化学的には違和感が残る事象なども残されており、継続的な研究が求められる。
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今後の研究の推進方策 |
この研究では、ミクロの分子モーターによってマクロな自律的巨視的変化を生み出す仕組みを、化学的実験と、数理モデルの離散数値解析から明らかにし、その実現に必要な要件の明確化、および新規自律運動材料の設計指針を生み出すことを目的にしている。 この目的に向け、基礎有機化学を研究背景とする研究代表者が、今後とも引き続き数学・物理学を学びながら研究を進めていく。そのために、研究協力者からの研究協力、領域研究者との研究交流をしながら進めていくことが望まれる。コロナ禍が故に、クロースなディスカッションをしにくい環境にあるが、努力していく。 また、古典的な力学では、本現象に介在する「対称性の破れ」を議論できない。この点が、研究目的達成における最大の弊害になる。天下り的に対称性を破ることを繰り返すと、現象をよく再現した数理モデルを構築できることになる一方で、何が鍵現象であるかを正しく把握できなくなる可能性がある。そのような点について、バランスをとりながら研究を進める必要がある。
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