この研究では、アゾベンゼンの可逆な光異性化反応と、そのアゾベンゼンを含有した結晶の異性体比変化が惹起する構造相転移が連携することで実現された、結晶の時間周期的な構造変化を伴った自己組織化構造について、その力学的形態変化を離散数学によって解析する。これにより、ミクロの分子モーターによってマクロな自律的巨視的変化を生み出す仕組みを明らかにするとともに、その実現に必要な要件の明確化、および新規自律運動材料の設計指針を生み出すことを目的にしている。 本年度は、結晶の水中での遊泳挙動について再検討した。粘性抵抗が支配的な環境では、結晶は前進と後退を繰り返し、正味としての力学的仕事はできない。また、剛体モデルの結晶が「しなる」動きをみせたとしても、モデル計算では遊泳しなかった。これらのことから、「狭い環境という異方性が水のニュートン液体としての性質を崩しているのではないか」という仮定を導入したときの結晶の遊泳を解析した。すると、実際の結晶で観察された遊泳挙動に、幾ばくか似た動きを示した。その結果はSmall誌から報告した。一方で、正味の遊泳を示せた真の理由は明らかにできていない(仮説に対して十分な証拠を示せていない)。対称性の破れがどのように発生するかを明らかにすることは簡単ではない。 次に、結晶を弾性体とみなし、それを小さな領域に分けて、その領域間に弾性的相互作用を設定したモデルについて、各領域の相状態の変化によって結晶がどのような形状変化を示すか、という課題について、昨年度からの研究を継続した。定常光照射下で、各領域の相状態が変化する挙動や、結晶が継続的に屈曲を繰り返す挙動について、モデル上でよく再現することができた。但し、この研究についても、ミクロとマクロをつなぐところに存在する「非線形性/非対称性」がどこから生まれているのか、を明らかにできておらず、本質的課題が一つ残された。
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