研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
20H04628
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
伊藤 良一 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (90700170)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カーボンネットワーク / グラフェン / 離散曲面 / 触媒 / 化学ドープ / 標準実現 / 数学モデル / 欠陥構造 |
研究実績の概要 |
離散曲面論における曲面はガウス曲率と平均曲率によって決められている。これらを基にした標準実現と呼ばれる数学モデルは、カーボンネットワーク構築に優れている。本研究は、異元素を入れ込んだカーボンネットワークの構築を行うため、標準実現モデルに対して必要最小限の近接元素間の反発効果を組み込んだ改善型標準モデルの構築を行った。まず、改善型標準モデルが正しく構造を再現できているのかを検討するため、欠陥構造を導入して形成した曲面に対して第一原理計算を行った後、標準実現による計算結果と第一原理計算結果を比較し、構造の精確さについて検討を行った。標準実現は第一原理計算に必要な時間の10億倍速く計算が可能かつ定性的な特徴(ガウス曲率、平均曲率など)を再現できることを確認した。次に、先ほどの曲面に対して異元素である窒素を導入し、構造がどのように変化するかを標準実現と第一原理計算を用いて検証した。その結果、異元素を組み入れた構造に対しても同様に定性的な特徴を再現できることを確認した。特に、ガウス曲率が大きい場所は欠陥構造が多く存在し、異元素をドープしやすいことが明らかとなった。また、平均曲率が大きい場所は、平均曲率が小さい場所よりも異元素をドープしやすいことが明らかとなった。この知見を材料設計に活かすべく、実際に曲面を持った化学ドープグラフェンの作製を行った。電子顕微鏡により、曲面のグラフェン格子上に欠陥が存在し、その周辺に多くの異元素がドープされていることを明らかにした。このグラフェンを用いてその場電気化学測定を行ったところ、曲面部に高い触媒活性を示すことが明らかとなった。これは欠陥構造を含有する曲面は欠陥構造を多く有し、それを緩和するために異元素が多くドープされ、異元素により触媒活性が向上した。一連の結果より、標準実現を用いた数学モデルは良い触媒を作り出せると実証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近接原子間の反発力を入れ込んだ改善型標準実現を構築し、その数学モデルから導き出された構造の精確さについて第一原理計算を用いた妥当性の評価を行い、数学的パラメーターと物理的・化学的パラメーターの関連付けを様々な視点で行っている状況である。その一部として、研究実績の概要に記したような異元素をドープしたグラフェンの触媒利用を考え、実験的に数学モデルを再現することで、標準実現を用いた数学モデルが良い触媒設計をすることができるという数学的解釈・予測を実験的に実証することができた。2020年度にこのように数学と材料特性との関連付けができたが、使用した数学的パラメーターと物理的・化学的パラメーターは極一部であり、網羅的に数学的パラメーターと物理的・化学的パラメーターとの関連付けができるように研究を継続している。2020年度に行った検討でこれらの相関が強く出た研究成果は、論文にまとめ、現在投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、近接原子間の反発力を入れ込んだ改善型標準実現の構築、その数学モデルの妥当性の評価、実験的検証などを行った。2021年度は、数学的パラメーターと物理的・化学的パラメーターの関連付けについての網羅的な検証や立体的なカーボンネットワーク構造に対する改善型標準実現の適応などを検討したい。それらにより、普遍的な材料設計や材料特性の予言・理解などに繋げたい。さらに、計画班の数学者との議論を通じて数学が得意とする物事のエッセンスの抽出を材料科学へ適応し、数学と実験の連携を深化させながら数学者と新しい視点で材料開発に臨みたい。2021年度は、 ①数学的パラメーターと物理的・化学的パラメーターの関連付けの網羅的な検証 ②立体的なカーボンネットワーク構造に対する改善型標準実現の適応 について重点的に研究を行う予定である。 ①数学的パラメーターと物理的・化学的パラメーターの関連付けの網羅的な検証については、引き続き特徴的な構造因子と物性値の関係に着目する。例えば、グラフェン格子内部に欠陥を導入すると、電子状態や電荷分布などが変わることが知られているが、それを数学的パラメーターと結び付けた例はない。それらがわかれば電子デバイス設計が可能となる。標準実現の有用さを示すために、更なる物理的・化学的パラメーターとの相関を探索する。 ②立体的なカーボンネットワーク構造に対する改善型標準実現の適応については、モデルサイズに着目する。2020年度に開発した標準実現の手法は、原子が100-2000個程度までしか有効性を確認していない。3次元のカーボンネットワークを考えると、数万を超える原子を取り扱う必要があり、標準実現と第一原理計算を相補的に組み合わせ、真に材料設計に役立つ数理モデルの構築と実験的実証を目指す。
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備考 |
第14回金研新素材共同研究開発センター共同利用研究課題最優秀賞
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