ゲル化臨界点をわずかに超えた点で得られる擬臨界ゲルは、非常に疎な無限大サイズの高分子網目と、サイズと分岐状態に広い分布をもつ有限クラスター群から構成される超ソフト固体である。擬臨界ゲルはフラクタル階層構造に由来するユニークな粘弾性と力学特性が期待されるが、その物性は全く調べられていなかった。本研究は、擬臨界ゲルの非線形粘弾性および大変形挙動を様々な変形モードを用いて調べ、その特異性を明らかにした。擬臨界ゲルの大変形応力緩和挙動を伸長変形とずり変形下で調べ、応力の時間依存性に対するひずみ-時間分離則がずり変形では成立するのに対し、伸長変形では成立しない、という特徴を見出した。極端に粘弾性が異なる混合系では粘弾性由来の相分離が起こることが知られている。非常に広いサイズ分布をもつ擬臨界ゲルでも粘弾性相分離が生じていることが予想される。変形によって生じる高分子鎖の伸長に敏感な伸長変形の方が相分離現象に対して敏感であると考えられる。 擬臨界ゲルの大変形挙動を二軸伸長変形によって調べ、ある方向のひずみの他方向の応力に対する効果(ひずみの交叉効果)がゲル化点に近づくにつれて最小化されることを見出した。この結果は多くの実在ゲルでみられるひずみの交叉効果が網目構造の粗密に依存すること、および閉じたループ構造がほとんどない非常に疎な網目になると同効果が消失することを意味している。この結果は、実在ゲルでみられるひずみの交叉効果の起源に迫るものである。
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