研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
20H04648
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
本武 陽一 統計数理研究所, 統計的機械学習研究センター, 特任助教 (80848672)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 位相幾何的データ分析 / パターン形成 / 機械学習 / パーシステントホモロジー / 磁区構造 / ブロックコポリマー の相分離構造 / 逆磁区発生の機序 / 準安定状態の特徴量 |
研究実績の概要 |
非周期的な秩序構造を持つ物質・材料系の構造パターン形成過程では、これまで用いられてきたフーリエ基底や統計量による特徴付けが困難となる場合がある。一方で、そのようなパターンは、物質・材料の物性値や力学特性値などと強く関連することが多い。従って、そのようなパターン形成の特徴を表現する特徴量を発見し、それを元に現象を予測する縮約モデルを構築することは、理工学的に重要な課題である。本研究課題では、位相的データ分析と機械学習手法を組み合わせることで、このような材料パターンの形成過程の特徴量抽出と縮約モデル構築を実現することを目標としている。 本年度は、位相的データ分析法を用いて抽出した材料構造の形成過程の特徴量が、材料の特性やパターン形成過程の機序をうまく捉えているかを確認することを目標とした。具体的には、「パーシステントホモロジー特徴量を用いた物性値推定」と、「核生成のトポロジカルな特徴づけ」の二つの課題を実施した。一つ目の課題に対しては、強磁性体の磁区構造形成過程と高分子のミクロ相分離構造の準安定状態の構造分析を対象として、磁性材料の磁気的性質と結びつく物性値や、ミクロ相分離構造の準安定状態を特徴付ける自由エネルギーを予測するモデルを構築した。その結果、位相的データ分析と機械学習を組み合わせることで、既存手法より高い精度の予測モデルが構築できることが確認された。これらの結果は、位相的データ分析法が材料構造の形成過程の特徴づけに有用であることを示す。二つ目の課題に対しては、強磁性体の磁区構造発生過程を対象とした分析から、これまで定量化されていなかった新しい磁区構造形成過程の定量化と、その背景に相転移的構造があることを発見した。 本研究ではさらに、この相転移的構造を説明できる理論構築にも取り組んだ。この取り組みは、単なるデータ分析に留まらない物理学への本質的な貢献となり得ると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は「パーシステントホモロジー特徴量を用いた物性値推定」と、「核生成のトポロジカルな特徴づけ」の二つの課題を実施した。一つ目の課題に対しては、強磁性体の磁区構造形成過程と高分子のミクロ相分離構造の準安定状態の構造分析を対象として、磁性材料の磁気的性質と結びつく物性値や、ミクロ相分離構造の準安定状態を特徴付ける自由エネルギーを予測するモデルを構築した。その結果、位相的データ分析と機械学習を組み合わせることで、既存手法より高い精度の予測モデルが構築できることが確認された。これらの結果は、位相的データ分析法が材料構造の形成過程の特徴づけに有用であることを示す。二つ目の課題に対しては、強磁性体の磁区構造発生過程を対象とした分析から、これまで定量化されていなかった新しい磁区構造形成過程の定量化と、その背景に相転移的構造があることを発見した。 これらの研究結果は、学会発表や学術誌への掲載を通して公表された。また、研究をさらに精緻化したものをより影響力の高い論文誌に投稿する予定である。また、依頼を受け、研究内容を元にした「位相的データ分析法による材料構造形成過程の分析」についての解説論文を執筆した。 本年度の研究成果はそれだけにとどまらず、強磁性体の磁区構造の発生過程について、理論的な側面からの理解の深化にも取り組んだ。これらは、来年度の研究目標である「核生成・成長過程の時間発展モデル構築」における基盤となり得る知見となる。この取り組みは、単なるデータ分析に留まらない物理学への本質的な貢献となり得ると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、予定通り「核生成・成長過程の時間発展モデル構築」を行う。 時間発展モデルの構築においては、物理的知見は最大限使いつつも、まずは工学的にうまくいくモデルを探索的に構築することを目的とする。つまり、背景にある物理構造だけでなく、データの見た目の構造に着目して、各種機械学習モデルを含めた、広く多様なモデルを探索的に当てはめてみることを検討する。時間発展モデルの評価においては、最終的な物性値・力学特性値だけでなく、本年度に得られた、時間発展プロセスの各段階を表現する特徴量を再現することも指標とする。また、モデルで説明変数とする空間は、位相的データ分析で得られるパーシステントダイアグラムを予定しており、その生成元の分布構造の時間変化をモデル化する。 この条件設定の元、対象の専門家と議論しつつ複数のモデル候補を設計する。その上で、ベイズ的モデル選択の枠組みによってそれらのモデルを評価する。ちなみに、ベイズ的モデル選択の枠組では、単にデータに当てはまりの良いモデルが選ばれるわけではない。事前分布という形で、データにない物理的知見をモデル評価時のバイアスとして導入することが可能である。このようなモデル構築とベイズ的なモデル評価、そしてそれらの結果に応じた新たなモデル構築というサイクルを回すことで、真の物理的機序を反映したモデルに接近していくことを試みる。
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