研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
20H04686
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
金城 政孝 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (70177971)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 蛍光測定 / 細胞内微環境 / クラウディング |
研究実績の概要 |
拡散現象で細胞質から核へ移行するタンパク質を研究対象として,その単量体と複合体を区別し,且つ,さらに別のタンパク質が結合してできる複合体分子の大きさとその量比と,その拡散速度を明らかすることを目指している。生細胞測定で困難なことは,細胞内分子クラウディング効果の影響を考慮しつつ解析を行う必要がある。その解決のために,申請者は通常の蛍光相関分光法/蛍光相互相関分光法(FCS/FCCS)測定で得られる並進拡散測定だけでなく偏光蛍光相関分光法で得られる回転拡散測定に注目した。FCS/FCCSで得られる並進拡散定数(DT)は球体分子場合,その半径に比例し分子量サイズは鈍感であるが,一方で回転拡散定数(DR)は分子量サイズ(M)に直接比例し敏感である。つまり回転拡散定数の時定数は並進拡散定数より1000倍以上も短いナノ秒領域にあり,従って測定は困難を伴うが,測定可能となれば,FCS測定のシグナルとして分離観測でき,この2種類の分子運動を比較することで細胞内微環境の変化を定量的に明らかにする。これまでに申請者の測定結果からPol-FCSによる高分子クラウディング(MMC)溶液中の並進・回転拡散時間計測の比較によると,細胞内MMCを再現すると言われるPEG、BSA、Ficollなどの種々の材料でその微環境状態が異なることが示された。これからの測定を基礎として,細胞内のPol-FCS測定と種々のクラウディング剤を混合状態の比較を行い,細胞内を再現するモデル状態の構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶媒中ので得られた並進・回転拡散時間を、基準となる溶媒中(PBSや純水)の並進・回転拡散時間で割った値である相対並進拡散時間(TD)と相対回転拡散時間(TR)が利用できるか検討した。すなわち,均一なショ糖溶液中などでは回転拡散時間と並進拡散時間のどちらも粘度に比例するため、溶質の濃度に関係なくそれぞれの比,R=TR/TDは1に近い値を取ると想定した。一方で、MMC溶液中では回転拡散よりも並進拡散の方が阻害されることから、Rは1よりも小さくなる。この指標の再現的な測定を行い,効果を確かめた。 また,構築したPol-FCS測定装置を用いて,生細胞測定が可能か検討した。生細胞測定たのためには,細胞位置を確認するために明視野観察を行い,その後,蛍光観察を可能とする必要があり,その間に細胞の移動や振動による,ブレが無いように注意をする必要があることが分かった。以上のように,溶液測定系から,生細胞測定系の構築への移行を行い,順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
生細胞測定における,細胞内微環境の変化について,昨年度はDouble Thymidine Blockによる,S期に停止して観察したが,今年度は,種々の細胞周期について検討する。この場合どのような試薬または手法が適切であるかは,細胞株にも依存するので,種々の組み合わせを検討する必要がある。 また,研究班会議において指摘されたタンパク質凝集について応用可能か検討を行うために,ハンチンチン(Qtt)タンパク質発現細胞由来の溶解液に対して,GFP標識認識抗体を用いて,結合過程が検出可能か検討する。 装置開発について次年度は,まず細胞測定を重点とするために,検出装置の安定化のため,これまでの光ファイバーで接続したAPD(avalanche photodiode,)ではなく,小型光電子増倍管(PMT)2台を利用して,偏光ビームスプリッター(polarizing beamsplitter, PBS)からの光シグナルと直接検出するように改良を行う予定。既に,PMTを用いた装置の構築は行ったが,高感度化を目指すために,種々のPMTを検討をする。
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