2021年度の研究では,細胞に外部からストレスを与えた際の細胞内夾雑環境の変化を追跡した。外部からのストレスとして,亜ヒ酸を培地中に添加することによって,酸化ストレスを与えた。亜ヒ酸添加後の細胞を固定化し,G3BP1を免疫染色することで,細胞内にストレス顆粒ができていることを確認した。同様に亜ヒ酸処理した生細胞について,多共焦点ラマン顕微鏡を用いてラマンイメージングを行った。その結果,特にC-H伸縮振動バンドの強度が高い点において,タンパク質に由来するAmide Iバンドや核酸に由来するプリン環のバンドの強度が高くなっていることがわかった。これらはストレス顆粒の主要な構成成分であり,このようなスペクトルは酸化ストレスを与えていないコントロール細胞では見られなかったことから,得られたラマンスペクトルはストレス顆粒のスペクトルと考え,生細胞内のストレス顆粒のラベルフリー観測に成功したと結論した。ストレス顆粒と帰属した領域以外でも,コントロール細胞と比較して,細胞質全体のC-H伸縮振動バンドの強度が高くなっていることがわかった。この結果は,細胞質全体で生体分子の濃度が高くなっていることを示唆しており,酸化ストレスとそれに伴うストレス顆粒の生成に伴って細胞内の夾雑環境が変化していることを示している。緩衝溶液中の液滴形成においても,夾雑度の大きさによって液滴内タンパク質の濃度が変化するなど,夾雑環境によって液液相分離が示唆されていることから,酸化ストレスに伴う細胞内夾雑環境の変化がストレス顆粒にどのように影響を与えているかについて,考察した。
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