研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
20H04693
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
西田 紀貴 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (50456183)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | in-cell NMR / Ras / ノックアウト細胞 |
研究実績の概要 |
細胞内におけるRasの活性状態(GTP結合型割合)のin-cell NMR観測から、Rasの細胞内におけるGTP結合型割合はin vitroよりも低下しており、細胞内の加水分解速度定数(khy)の上昇と、GDP-GTP交換速度定数(kex)の低下の両方が寄与していることが明らかとなった。そこで、内在性GAPの寄与を定量するため、代表的なGAPであるp120およびNF1をそれぞれノックアウトした細胞をゲノム編集法により作製し、in-cell NMRによりKO細胞中におけるRasのGTP結合型割合の変化を解析した。その結果、野生型RasのGTP型割合はいずれのKO細胞中においても有意な差は観測されなかったものの、T35S変異体ではNF1のノックアウト細胞中でコントロール細胞よりも顕著なGTP結合型割合の増大が観測された。さらに、NF1の存在を考慮した数理モデルを構築し、細胞内におけるNF1の活性パラメーター(酵素活性:kcat、基質親和性:Km)を算出することに成功した。よて、細胞内Rasの加水分解亢進におけるNF1の寄与を選択的かつ定量的に評価する新しい実験系の確立を行うことができた。 また、様々な分子クラウダ―を添加して、細胞内分子混雑環境を模倣した条件下におけるkhyならびにkexの測定を行った。その結果、グリセロール存在下ではkexが野生型および全ての変異体で顕著に低下したことから、粘性の増大によって細胞内Rasのkexの低下が引き起こされていることが明らかとなった。この原因として、細胞内では粘性の増大により分子の拡散速度が低下するため、Rasから解離したGDPの再結合が促進することで、見かけのkexが低下していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞内タンパク質は特定の細胞内因子による活性制御を受けるが、その影響を定量的に評価することは困難であった。本研究では特定の制御因子をノックアウトした細胞を用いたin-cell NMR観測を行うことで、その因子がRasの活性に与える影響を定量するというProof-of-conceptを確立することができた。この手法は特定の細胞内因子の活性を評価する手法として広く適用が可能であり、今後Rasの活性制御因子を特定することができれば、本手法を用いてその因子の活性パラメーターを定量的に評価できると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
G12VやQ61LなどのRas変異体の多くは、GAPとの相互作用が低下することにより、GAPに対する感受性が失われることが知られている。したがって、細胞内で観測されたRas変異体におけるGTP加水分解速度の上昇には従来のGAPとは異なる因子の寄与が存在することが示唆される。今後は、GAP非感受性Ras変異体のGTP加水分解速度を上昇させる細胞質内因子の同定を行う。細胞質破砕中に含まれるRas相互作用分子をGSTプルダウン法により回収し、プロテオーム解析によりRasのGTP型割合を変調させる因子を網羅的に探索する。G12V変異体の加水分解速度を上昇させる因子が同定できれば、その因子をノックアウトした細胞を構築してin-cell NMR解析を行うことにより、Rasの活性を変調させる因子の同定および当該因子のGTP加水分解速度上昇に及ぼす影響を定量的に算出する。
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