研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
20H04695
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小澤 岳昌 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40302806)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 膜レセプター / インスリン / エンドサイトーシス |
研究実績の概要 |
(I)細胞膜レセプターの活性をアップコンバージョンナノ粒子(LNP)を用いて制御する技術では,optoINSR分子の機能評価を行った.次にマウス肝臓へのoptoINSR遺伝子の導入方法を検討した.AAV2 ウイルスを用いてGFP遺伝子の肝臓内での発現を確認したところ,感染から二日目にGFPの発現を確認することができた.一方optoINSR遺伝子についてはAAV2ウイルスによる発現が確認されなかった.原因としてはoptoINSR遺伝子のサイズや配列により,高タイターを得られにくくなっている可能性が考えられた.そこでoptoINSR発現トランスジェニックマウスの作成を開始し, ES細胞の作成を完了した. (II)細胞膜レセプターのリサイクリング(エンドサイトーシスとエクソサイトーシス)を近赤外光により操作する技術では,E-fragmentによる細胞膜レセプターの光依存的エンドサイトーシスについて,誘導効率の改善を検討した.これまでに,TRPV2は細胞膜に局在するが,E-fragmentを接続した場合に細胞膜局在効率が低下してしまう現象が確認されていた.細胞膜局在効率低下の原因として,E-fragmentがTRPV2テトラマー形成を阻害している可能性,MisfoldのためERにトラップされている可能性などがあったため,様々な改善を検討した.共焦点顕微鏡で候補分子の細胞内局在を確認したところ,E-fragmentの疎水性領域を削除した分子について細胞膜局在効率の改善が確認された.さらに,発光タンパク質NanoLucを用いて細胞膜表面のTRPV2を定量したところ,光依存的なエンドサイトーシス効率が上昇していることが明らかとなった.また,本システムの生体応用を志向して,E-fragment融合型DRD2を恒常発現するトランスジェニックマウスの作成を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(I)細胞膜レセプターの活性をアップコンバージョンナノ粒子(LNP)を用いて制御する技術―当初の計画ではoptoINSR遺伝子の導入をAAV2ウイルス(4YF+TV 変異体)により導入することを検討していた.GFP遺伝子については問題なく導入できていたものの,optoINSR遺伝子については発現が確認されなかった.原因としては遺伝子長や配列依存的に高タイターが得られにくくなっている可能性が考えられ,遺伝子導入方法の見直しが必要と考えられる.一方でoptoINSRを発現するトランスジェニックマウスについては作成を開始している.このように,一部実験計画に変更は必要なもののおおよそ順調に進行していると考えられる.
(II)細胞膜レセプターのリサイクリング(エンドサイトーシスとエクソサイトーシス)を近赤外光により操作する技術―当初の計画ではD2RについてE-fragmentによる光依存的なエンドサイトーシスの駆動を近赤外光により駆動させる予定であった.一方で,他の膜レセプターについてE-fragmentによる光依存的サイトーシスを応用する過程で,分子設計について再考の余地があることが示唆され,本年度は,E-fragmentによる光依存的なエンドサイトーシスについて改善がみられるかどうか分子設計の再検討を行った.その結果,E-fragmentの一部を削除することで光依存的エンドサイトーシスを改善させられるケースがあることが判明した.また,本システムの生体応用を志向して,当初の計画通りE-fragment融合型DRD2を恒常発現するトランスジェニックマウスの作成を開始した.一方で,当初計画していた下流シグナルの検討については準備段階にとどまっており,来年度本格的に実施する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
(I)細胞膜レセプターの活性をアップコンバージョンナノ粒子(LNP)を用いて制御する技術―来年度は,近赤外光照射によりLNPから発せられたアップコンバージョン光によって下流シグナルを誘導可能か検討する予定である.また,optoINSRのマウスへの遺伝子導入において,AAVウイルスでは遺伝子長や配列によりマウス実験に必要な高タイターのウイルスが得られにくくなっている可能性が示唆された,そこで来年度は遺伝子が長くても効率的な遺伝子導入が可能なAdVウイルスを用いた遺伝子導入を検討する予定である.また,optoINSR発現マウスについて,F1マウスが成長した段階で実験を開始する予定である.一方LNPについて,現在LNPを提供していただいているシンガポール南洋理工大学のBengang研究室からLNP合成の技術移転を進める予定である. (II)細胞膜レセプターのリサイクリング(エンドサイトーシスとエクソサイトーシス)を近赤外光により操作する技術―本年度の研究結果により,光依存的なエンドサイトーシス効率の定量的解析には発光タンパク質NanoLucの自発的再構成反応を用いた細胞表面上の膜タンパク質の定量が有効であることが確認された.そこで来年度は,E-fragmentを融合したDRD1やDRD2についても光依存的なエンドサイトーシスを定量的に評価する予定である.また,細胞膜上のレセプター量の減少によりリガンド依存的な下流シグナル誘導量に変化がみられるかどうかについて,細胞内cAMP濃度を定量可能な生物発光センサーGloSensorを用いて評価する予定である.また,E-fragment融合型DRD2を恒常発現するトランスジェニックマウスについて作成が完了次第,青色光照射条件と暗条件でのマウス行動に変化がみられるか解析する予定である.
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