研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
20H04696
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
倉持 昌弘 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (60805810)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 線虫C.エレガンス / X線1分子計測 / 結晶性 / 蛍光タンパク質 / 細胞内夾雑場 |
研究実績の概要 |
X線回折現象を利用した分子動態計測法(Diffracted X-ray Blinking, DXB)は、タンパク質分子に金ナノ結晶を標識し、単色X線を照射し、ナノ結晶由来のX線回折像を時分割取得することで、タンパク質分子の動的挙動をÅレベルで捉えることができます。最近、私は線虫C.エレガンス体内で機能するタンパク質分子のDXB計測を実施し、温度依存的な分子挙動の取得に成功しました。 本課題では、凝集性をもつ蛍光タンパク質に着目します。標的タンパク質は細胞内で凝集し、結晶化するユニークなタンパク質ですが、結晶化プロセスにおける分子の動的性質は明らかになっていません。標的分子は、発現初期は凝集せず細胞内に遊離した状態で存在しますが、ある段階で即座に凝集、結晶化します。この引き金となる要素は不明ですが、その要因として「過飽和状態」が関与すると考えました。そこで本研究では、生体内におけるタンパク質分子自身の動きと、その環境場の動的性質を観測することで、結晶化プロセスと関連した分子、夾雑場の物理パラメーター取得を行います。線虫C.エレガンスに標的分子を遺伝子発現させ、タンパク質自身の結晶性を利用したX線回折像から分子動態を取得し、かつ細胞内にナノ微粒子を導入することで夾雑場の観測も行います。DXBは単色X線を利用するため、生体内計測が可能で、放射光施設とラボX線回折装置で測定できます。時間的制限の少ないラボ計測をメインに展開し、また蛍光イメージング技術を組み合わせることで、細胞内の凝集状態を観察しながら、分子動態および夾雑場の同時計測を行います。生体内という分子夾雑環境、その中でダイナミックに振る舞うタンパク質の動的情報を取得し、結晶化を引き起こす細胞内環境、分子特性の実像に迫ります。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、線虫サンプル系の作製、蛍光観察、および標的タンパク質分子のX線分子動態計測を行った。その結果、線虫体内の標的タンパク質分子から、微弱ではあったが分子由来のX線回折像を取得できた。また、この計測実験と並行して、微弱な回折信号からでも結晶動態を評価できる解析技術の開発にも取り組んだ。これにより、線虫体内に形成された結晶動態の温度依存性を評価することができた。つぎに、大型放射光施設SPring-8 BL40XUビームラインにおいて、準白色X線を利用した結晶動態計測を実施した。準白色光を利用することで、結晶の傾斜運動と回転運動、格子ゆらぎを区別することができる。プレリミナルな結果ではあるが、結晶の動きを反映したX線回折スポットを解析すると、結晶の傾斜運動および回転運動の定量変化を検出できた。これらの結果を統合することで、粒子回転、結晶格子ゆらぎの変化量を実空間スケールでそれぞれ評価できることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内夾雑場の動態計測を実施するため、細胞内にナノ結晶を導入する手法の検討を行っている。線虫個体レベルの実験は困難さが伴うため、in vitro検証、培養細胞を利用した実験を実施している。細胞内に金イオンを導入後、光照射によりナノ粒子化する手法が有効である結果を得た。そこで、まず培養細胞を対象として、細胞内分子夾雑場のX線動態計測を実施し、凝集・結晶化プロセスと関連する夾雑場ゆらぎを定量評価する。これら一連の計測・解析を通して、細胞内、最終段階としては生体内における過飽和現象と結晶化プロセスの動的性質を明らかにしていきたい。
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