生体内における凝集・結晶化プロセスの動的性質を明らかにするため、結晶化タンパク質を対象として、タンパク質分子のX線動態計測、蛍光イメージングによる凝集状態観察、そして細胞内夾雑場のゆらぎ計測を実施し、夾雑環境場と凝集・結晶化の物理素過程の理解を目指した。 X線分子動態計測法は、標的タンパク質分子にナノ結晶を標識し、ナノ結晶由来のX線回折像を時分割取得することで、タンパク質分子の動きを捉えるユニークな計測法である。従来、タンパク質分子は、結晶性をもたないが、今回着目するタンパク質分子は細胞内で結晶化するため、タンパク質の動きを直接X線計測できる。これまで線虫サンプル系の作製、蛍光観察、およびタンパク質分子のX線分子動態計測を行った。その結果、線虫体内のタンパク質分子から、微弱ながらも分子由来の回折像を取得できた。一方、微弱信号から分子動態を捉えることは困難を極めたため、物性既知の無機材料を対象として、本計測法の検出限界改善に取り組んだ。試料最適化、X線測定用光学顕微鏡構築、新規の時分割解析法の考案など、ハード・ソフト両面の改良を行い、SN比の粗悪データからでも物性動態を評価できるようにした。これにより、線虫体内に形成された結晶動態の温度依存性を評価することができた。大型放射光施設SPring-8を利用した測定も実施し、線虫体内に形成された結晶分子は、結晶格子ゆらぎが主な運動成分であり、結晶成長と関連した動きである可能性が示唆された。これと並行して、タンパク質周囲の細胞夾雑環境の測定技術開発にも取り組んだ。さらに、結晶をキーワードとして、細胞や個体生物の凍結保存に着目し、本計測を適用した。生体内部で氷晶が成長していく瞬間を捉えることができ、結晶がどのように生体内で構築・蓄積されていくのか、その過程や動的構造の基礎知見を深めることができた。
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