研究実績の概要 |
あらゆる生物学的経路にはタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)が関わる。この様々な生物学的経路を解明するために、PPI を検出・同定する技術の開発が求められている。本研究では、生細胞内での細胞内光触媒近接場標識法(intracellular Photocatalytic-Proximity Labeling: iPPL法)の開発を目指し、従来法では検出が困難であったPPI の検出・同定法を確立することを目的として研究を遂行した。 本年度は、DNA翻訳や複製においてPPI パートナーが時空間的に変化するヒストンH2Bを対象タンパク質に選択した。令和2年度にで確立した手法により細胞内のH2BのN末に、HaloTagを強制発現させ、有機光触媒-HaloTag リガンド連結分子を作用させることで光触媒を細胞内へ導入した。その結果、遺伝的に発現したHaloTag-H2Bのほとんどがクロマチンに局在し、アクリフラビン結合HaloTagがこのH2Bに結合していることが示された。そこで、ラジカル標識剤にMAUra-DTBを用いて青色LEDで1分間照射を行い、iPPLにより標識されたタンパク質をウェスタンブロットにより明らかにした。特に分子量15 kDaにはヒストンタンパク質H2A, H2B, H3, H4が含まれていた。さらにMS/MS分析を行い、ヒストンH2B-インタラクトームを特定したところ、検出された87個のタンパク質のうち、33個がiPPLで有意に標識されたタンパク質であり、染色体タンパク質16個を含む30個の核タンパク質が同定され、iPPLが核内で進行していることが示された。遺伝子オントロジー解析によると、標識タンパク質にはリボ核タンパク質複合体、ヌクレオソーム、スプライソソーム複合体などが含まれている一方で、BioIDで標識されるDNA結合タンパク質は標識されなかった。以上、本研究ではタンパク質夾雑空間解析のためのiPPL法の開発に成功した。iPPLはBioIDやAPEX法よりも標識半径が小さいため、より焦点を絞ったPPIプロファイリングが可能と考えられる。
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