細胞膜は、種々の分子が密集する「究極の分子夾雑環境」である。この分子夾雑環境の中で細胞膜との特異的相互作用により膜の形や流動性を制御できれば、細胞運動や、分化、分裂などを制御する分子ツールが得られる。また、膜との相互作用を介して、膜に担持されたタンパク質の働きを調節できれば、「細胞内イベント」を制御するユニークな分子ツールとなり得る。本研究では、「分子夾雑環境下に膜の形状や流動性というソフト環境を制御・調節する機能性ペプチド」の創出と機能評価・解析を通して、「生命化学分野における新しい細胞操作技術(生体膜システム工学)」としての一層の展開を図ることを目的とした。成果として、細胞膜とペプチドとの相互作用調節による膜曲率増強・膜構造変換促進を目的に新規ペプチドの創出を行い、9アミノ酸からなる膜曲率の誘導活性を有する両親媒性ペプチドが、エンドサイトーシスによる細胞取込を促進する効果を有することを見出した。また、曲率誘導ペプチドEpN18の3量体化により、単量体の1/80の濃度で単量体と同等の脂質パッキング緩和活性とオクタアルギニンの膜透過促進効果を有することを示した。さらに、曲率感知ペプチドにより、菌体から放出される細胞外小胞を効果的に検出する系も構築した。弱毒化溶血ペプチドL17Eの3量体と蛍光標識した抗体(IgG)が液-液相分離を起こし液滴を形成すること、この液滴が細胞膜と接することでダイナミックな細胞膜の波打状態が誘起され、これに呼応して抗体が細胞内に一気注入されることも示した。
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