研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
20H04708
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中曽根 祐介 京都大学, 理学研究科, 助教 (00613019)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 閉じ込め効果 / 微小空間 / 混み合い効果 / 光センサー / 過渡回折格子法 |
研究実績の概要 |
夾雑環境を生体分子の反応場として物理化学的に理解するために、これまで様々なクラウディング環境下で、光センサータンパク質PACの反応・揺らぎ・安定性・酵素活性を網羅的に調べてきた。PACは光受容を担うBLUFドメインと酵素活性を持つACドメインからなり、光依存的にcAMPを合成する酵素である。独自の分光法である過渡回折格子(TG)法を用いて希薄バッファー中とクラウディング環境におけるPACの動的挙動を比較した結果、構造安定性と構造揺らぎにトレードオフの関係があることや、光反応性および酵素活性がクラウディング剤濃度の増加とともに単調に低下することがわかった。これらの主な要因として溶液の粘度上昇や排除体積効果が挙げられる。しかし、混み合い効果はクラウディング剤濃度がある閾値を超えて初めて観測される非線形的な効果であるはずで、またタンパク質機能は細胞環境に最適化されているという当初の予想に反する結果であった。以上から「本当に細胞環境を再現できているのか」という懸念が浮かび上がった。 生体分子は細胞やオルガネラといった微小空間で機能する。したがって、実在環境での挙動を理解するためには、混み合い効果に加えて、微小空間による閉じ込め効果を取り入れた解析が必要となる。そこで今年度は、微小空間内での反応や揺らぎ解析を実現するために、対物レンズを用いたTG法の開発に取り組み、現在までに水平方向11μm, 奥行方向27μmの空間分解能を達成した。空間分解能に改善の余地はあるが、細胞サイズ程度の微小空間内において、生体分子ダイナミクスの時間分解解析を可能にする画期的な技術開発である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度開始当初は、微小空間内での反応・揺らぎ検出を行うために、人工ベシクルや相分離による液滴を作製してTG測定を試みたが、ベシクルや液滴界面からの散乱光が強く、解析可能なデータの取得に至らなかった。この問題を解決するために前述の対物レンズを用いたTG法を開発した。この技術により、個々のベシクルや液滴からの信号を取得できるため、散乱の影響を低減できると期待される。現在は、その応用に向けて、石英材の微細加工に着手しているため、おおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は微細加工や巨大ベシクルなど様々なサイズ・性質の微小空間を構築し、その中でのPACの動的挙動をクラウディング環境下で定量的に調べ、閉じ込め効果の詳細や、混み合い効果との相乗(相殺)効果を物理化学的視点で解明する予定である。テスト測定としてサンプルをカバーガラスで挟み、厚さ10μmの空間におけるPACの反応解析を行ったところ、反応性の著しい低下が観測された。この結果は、微小空間内では分子の反応性が低下すると解釈することもできるが、恐らくガラス表面への吸着によりタンパク質が壊れたためだと考えている。したがって、今後の測定では、材質表面をタンパク質BSAなどでコーティングしてから測定を行う予定である。
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