研究実績の概要 |
天然のチャネル蛋白質の機能や動作機構を模倣した人工チャネルは、自在な膜輸送を可能とする材料として注目されており、近年盛んに研究が進められている。人工チャネルの構築において重要であるチャネル分子の自己集積過程の制御には、多くの場合、水素結合などの弱い非共有相互作用が用いられている。本研究では、自己集積化の駆動力として「金属配位結合」に着目し、抗生物質であるアンフォテリシンB (AmB)に金属配位部位(ビピリジン配位子)を修飾した金属ハイブリッドチャネル分子を設計・合成した。ビピリジン配位子への金属配位(銅イオンやニッケルイオンなど)に伴う集積状態制御とカルシウムイオンの透過能について発表した(Chem. Commun., 2021)。さらに、HPTSを指示薬としたアルカリ金属イオンの透過能評価では、ビピリジン配位子を導入したAmBは、配位子を導入していないものとは異なるアルカリ金属イオン選択性を示し、金属配位によりイオン透過機構が変化する可能性が示唆された。吸収スペクトルの経時変化測定によるチャネル形成過程の解析、および、共同研究によりシングルチャネル活性測定を実施し、チャネルサイズなどのより詳細な分析を進めた。また、単一成分からなる脂質膜だけでなく、夾雑脂質膜である大腸菌から抽出した脂質を用いたHPTSアッセイも行い、夾雑脂質膜でも金属ハイブリッドチャネルが機能することを確認した。加えて、新たな金属ハイブリッドチャネル分子として、水中で様々な遷移金属へ配位可能なフェナントロリンを修飾したチャネル分子も合成した。
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