研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
20H04721
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
毛利 一成 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 研究員 (00567513)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 1分子計測 / FLIM / FCS |
研究実績の概要 |
これまでに我々は全反射顕微鏡により時間分解能5ms の高速な細胞内1 分子計測法を確立してきた。ところが、蛍光分子の輝度や位置だけでは、分子の状態や周囲の粘性といった環境条件はわからない。そこで我々は共焦点顕微鏡の画像解析法を開発することで、容易に細胞内の多点FCS やFCCSを行う手法提案した。これにより酵母細胞内のオートファゴソーム前駆体であるPASが、相分離により形成される液滴であることが明らかとなった。さらにFCS の計測条件を検討するにつれ、軸索内キネシンの1 分子輝点を時間分解能60μs で捉えられることができ、TIRF の100 倍近い高速1 分子追跡(SPT)が可能であることが示唆され、拡散する分子の追跡も期待できる。本年度はこのSPT法が実際に1分子輝点を追跡できることを検証するために、in vitroでのキネシンの運動を、精製したKIF1Aのモータードメインをトラッキングすることで行った。さらに1分子FLIMを実現するためには、キネシン分子内のアミノ酸部位間の距離、あるいはキネシンー微小管間の距離が10nm以下となる必要がある。この計測を実現すべく、click反応により任意のアミノ酸を色素標識する手法を導入した。さらにFLIMを1分子で行うために、1画素レベルのシグナルを統合することで、蛍光寿命を推定することが必要であり、そのための画像解析手法の開発に取り組んだ。これらの実験からキネシンがATP・ADPの存在下で異なる拡散動態を起こす過程を、1分子レベルで観察することが可能であることが示唆される結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに細胞内外の分子濃度推定のため共焦点顕微鏡の画像解析による蛍光相関分光法(FCS)を構築した。これにはウェーブレットによるノイズ除去が必要であり、そのための画像解析手法を開発した。本手法は様々な細胞内分子に適用可能であり、酵母のオートファゴソーム前駆体(PAS)が液―液相分離していることの証明のため細胞内の生理的条件での液滴のFCS計測を行うことに成功している。このFCS法をベースに強力なレーザーパワーとピクセルサイズ・スキャン速度の調整により、1次元運動するサンプルの1分子輝点の追跡(SPT)が可能であることが示唆された。これを検証するため古くから1分子計測の実験系としてよく使われる、精製したキネシン(KIF1A)の微小管上1次元運動計測系を導入した。KIF1AはATP/ADP/AMPPNP存在下で微小管上の前進・拡散・停止をそれぞれ行うためこの動態を本SPT法で調べることで、実際にKIF1Aの1分子動態を観察していると思われる。FLIMへの応用のためにはプローブの選択と、画像解析法の開発の両方が必要となる。前者はKIF1Aのアミノ酸部位に非天然アミノ酸を挿入する手法を導入しClick反応で標的部位への色素導入ができるようになっている。後者はFLIM画像データをデコードすることにより、各画素の蛍光寿命情報を抽出できるようになっており、低光子数での蛍光寿命推定に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内でFRETシグナルを検出するのは様々なアーティファクトが起こるため困難である。FLIMは蛍光輝度に依存せずFRET信号を検出できるため、今後は適切なFLIMのプローブ選択を進める。神経軸索輸送はキネシンをはじめとした分子モーターにより担われているため、これまで対象としてきたKIF1やKIF5について、①分子内の構造変化によるFRET、②キネシン2量体間のFRET、③微小管とキネシン間のFRETについてプローブの作成を検討する。蛍光タンパクのほか、すでにClick反応により任意アミノ酸への蛍光色素標識が可能であり、構造データを参照に分子間距離を考慮して色素導入を検討する。Click反応の効率を上げるための非天然アミノ酸や修飾反応の適用を検討する。FRETによる蛍光輝度変化と異なり、FLIMでは蛍光寿命変化を定量化することになり、一般的にFRETにより蛍光寿命の減衰が起こる。FLIM-FRETセンサーの一般的な組み合わせのルールは未知の部分も多いと推測され、特に1分子計測への適用には褪色やブリンキングなど様々な問題が起こり得ることを考慮し、蛍光タンパクや色素選択を行う。さらに従来知られているFRETによる蛍光スペクトルの変化が寿命変化とどのように対応しているのかについて知見は少なく、1分子FLIMに対する一般的な指針の手掛かりとなるよう実験を進める。
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