研究領域 | 分子夾雑の生命化学 |
研究課題/領域番号 |
20H04722
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
竹内 恒 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (20581284)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子夾雑 / 薬物 / 動的相互作用 / NMR / 創薬基盤技術 / タンパク質 |
研究実績の概要 |
分子夾雑環境下においては、溶媒排除効果や周辺分子との非特異的相互作用により、タンパク質の安定性や動的構造が希薄溶液とは異なることが明らかになってきた。しかしながら、薬剤と標的タンパク質との相互作用を考えた場合、薬剤が実際に機能する細胞内において、両者の動的相互作用解析を原子レベルで行った例は極めて少ない。研究代表者は、NMR法を用いたタンパク質と薬剤の動的相互作用解析を、希薄溶液下で行ってきた。その中で、タンパク質の動的性質が薬剤との相互作用に影響することを、複数の系で示してきた。そこで本研究においては、タンパク質の動的性質が薬剤との相互作用に影響する系において、細胞内夾雑環境と希薄溶液との比較を行うこととした。具体的には、細胞内NMR観測の実績のあるタンパク質を取り上げ、研究を推進した。当該タンパク質については特異的な相互作用相手である中分子が存在し、希薄溶液条件で動的構造解析を行った報告がある。本研究では、非結合状態の標的タンパク質をエレクトロポレーションによりHeLa S3細胞に導入した後、長時間のNMR測定を可能にする“培地還流システム”に接続し、中分子を含む培地を細胞の外側で還流させることで、細胞外から導入した。連続的に対象タンパク質のin cell NMRスペクトルを取得した結果、観測開始時には極めて弱かった複合体のNMRシグナルが経時的に増強し、中分子との複合体に対応するNMRスペクトルが出現した。また、中分子複合体のメチル側鎖のダイナミクスを、FCT法を用いて観測した結果、細胞内では希薄溶液条件と比較して、結合面における一部の側鎖の運動が顕著に抑制されていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、タンパク質の動的性質が薬剤との相互作用に影響する系において、細胞内夾雑環境と希薄溶液との比較を行い、細胞内分子夾雑環境が動的構造解析にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とする。研究提案では、分子夾雑環境の影響を特に受けやすいと考えられる2つの系に関して、細胞内夾雑環境と希薄溶液との比較を行うことを提案した。提案した系においてタンパク質のNMRシグナルを、細胞内で観測することが出来ていないが、同等の情報を得ることのできる、タンパク質中分子複合体の解析で、分子夾雑下での結合界面の運動性が異なるという興味深い結果が得られていることから、十分な成果が挙がっていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はより解析を開始した系において、構造エントロピーの算出など、定量的な解析を実現する。また、シグナルの消失の原因と思われる細胞内における非特異的な相互作用を変異体などで制御し、複数の系において細胞内分子夾雑下での運動性解析を可能にしたい。
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