研究実績の概要 |
我々は最新の銀河形成シミュレーション(IllustrisTNG, Nelson+ 2019)を用いて、物質の空間分布から銀河の特異速度の不定性を除去する手法を開発した。TNGは暗黒物質とバリオン(星、ガス、ブラックホール)の重力進化を同時に追っており、星や銀河形成、活動銀河核によるフィードバックも考慮されている。一般に公開されている銀河形成シミュレーションとしては最新のものである。必要な全シミュレーションデータをダウンロードし解析を行なった。 TNGデータには、宇宙大規模構造を再現した立方体(1辺205Mpc/h)内に約200万個の銀河と約300億個の粒子(暗黒物質とバリオン)が分布している。始めに粒子分布の質量ゆらぎのパワースペクトルを求め、実空間&赤方偏移空間共に線形理論と良い一致を示すことを確認した。また同様の計算を銀河分布に対しても行い、良い一致をみた。次に以下の手順で銀河の速度場を推定した。まず、あるスケール(r_s)でならした密度分布を粒子分布から出す。次に流体力学の連続の式を摂動的に解いて、密度場から速度場を導出する。この際、線形理論だけでなく、2次摂動の効果を取り入れたモデルを用いた。より小スケールr_sで平均化すると、非線形領域を扱うため、高次の摂動論が重要になる。また我々は(非線形性が比較的低い)銀河団に属していない銀河をサンプルとして選んだ。我々は銀河の視線方向の特異速度の分布関数(PDF)を求め、元々の分布の標準偏差と、推定した速度場を差し引いたあとの標準偏差を比較し、どの程度標準偏差が減少するか調べた。その結果、r_s=5Mpc/hとしたときに、実空間&赤方偏移空間でそれぞれ約45%&38%、特異速度の標準偏差が減少することを見出した。
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