重力波観測は動的で強い重力場中、または、宇宙論的な距離での重力理論の検証を新たに可能性にし、既に様々な観測的検証が行われている。今後の更なる高精度での検証のためには複数の重力波データを組み合わせた統計解析が必須である。本研究の目的は、そのような統計データ解析の枠組みを構築し、実際の重力波観測データに応用して世界最高精度での重力理論の観測的検証を行うことである。 本年度は以下の成果が得られた。(1) スカラー・テンソル理論におけるスカラー偏極モードへの観測的制限:昨年度に構築したスカラー・テンソル理論における一般的な重力波形を用いて重力波観測データの解析を行い、重力波生成におけるスカラー偏極モードの存在にこれまでで最も強い制限を課した。(2) 重力波の生成と伝播を考慮した統計データ解析:昨年度に構築した、重力波の生成と伝播の効果を含む重力波形の理論的枠組みを用い、重力波信号の擬似カタログを生成し、パラメータ推定について統計的な解析した。その結果、重力波の生成と伝播の効果は複数の重力波信号を合わせて解析することで分離できることを定量的に示した。(3) アクシオン暗黒物質起源の重力波探査:アクシオンが暗黒物質の正体であった場合には、アクシオン雲中を伝播する重力波は特徴的な2次重力波を生成することが知られている。我々は重力波観測データを統計的に解析し、そのような2次重力波を探査した。信号が見つからなかったことからアクシオン暗黒物質の重力結合の強さに対してこれまでで最も強い制限を課した。(4) 重力波円偏極モード探査の前景放射:通常、コンパクト連星からの重力波が作る背景放射は円偏極成分を持たないと考えられていた。しかし、我々は波源の数が有限の場合の背景放射を計算し、統計ゆらぎによる円偏極成分が存在し、初期宇宙起源の円偏極モード探査の前景放射になることを示した。
|