ここ数年の間に,原始ブラックホール(PBH)の形成の際の曲率揺らぎの統計的非ガウス性の重要性の認識が高まってきた。本研究は,その共通認識を育てるうえで大きな貢献をした。主な具体的成果は以下のとおりである。 1.PBHが宇宙の暗黒物質となる具体的インフレーションモデル・非極小カ―バトンモデルを構成し,PBH形成が非摂動的非ガウス性で決まることを明らかにした。また,その曲率揺らぎに付随して発生する宇宙論的重力波を使って,2030年代に打ち上げ予定のスペース重力波検出器LISAによってモデルの検証可能であることを明らかにした。 2.インフレーションを引き起こす場,インフラトン場のポテンシャルに,ほんの小さなステップが存在するだけで,その曲率揺らぎの確率分布が非摂動的非ガウス性を持つことを,簡単な例で明らかにした。さらに,モデルパラメーターによっては,たとえ揺らぎのスペクトルの振幅が大きくても,大きな曲率揺らぎの確率が完全にゼロとなり,通常のPBH形成が全く起こらないことがあることを示した。そして,この場合も含めて,このモデルではインフレーション最中にもブラックホールが形成される可能性を指摘した。 3.地上重力波検出器LIGOなどによって中性子性ーブラックホール連星の合体からの重力波が観測されており,このブラックホールがPBHであるかどうかが,大きな課題であった。そこでこのブラックホールがPBHであるとする仮説を理論的に検証し,その可能性がほとんどありえないことを明確に示した。
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