連星中性子星や連星ブラックホールの合体からの重力波が直接検出されるようになり、今や重力波は重力波天文学として天文学の新しい一分野となった。本研究課題では、特に中性子星からの連続重力波に着目して研究を行ってきた。連続重力波は、振幅と周波数がほぼ一定の重力波で、自転に対して非軸対称的な構造を持ちながら回転している中性子星が連続重力波の有力な候補天体と考えられている。 中性子星の非対称的な構造の起源としては様々なモデルが考えられているが、本研究課題では、連星系内の中性子星で有力視されている降着物質による磁気山モデルに特に着目して研究を進めてきた。連星系内の中性子星表面には、伴星からの質量降着により物質が降り積もってくるが、この時この降着物質が中性子星の磁場によって支えられることで、磁場によって支えられた降着物質の山、磁気山が形成されると考えられている。この山が十分に大きなサイズでも存在できる場合、この中性子星は連続重力波を放出すると考えられている。 このような磁気山の研究はすでにいくつかなされているが、これまでの研究では、中性子星の磁場を単純な双極子磁場に仮定していた。しかし最近のNICERによる中性子星表面の観測結果によると、中性子星は表面付近では、双極子磁場よりも局所的に強く複雑な構造の多重極磁場を伴っていることが明らかになってきている。そこで本研究課題では、多重極磁場を伴っている中性子星の磁気山の構造を計算するための定式化と数値計算コードの開発を行い、新しい磁気山の解を多数求めた。その結果、局所的に強い多重極磁場があると、双極子磁場だけの時に比べ大きな磁気山を形成できることが分かった。さらに、多重極磁場が降着によって埋め込まれている時は、強いトロイダル磁場も一緒に埋め込まれうるということも分かった。この研究結果は論文としてまとめられ、査読つき国際誌としてすでに出版されている。
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