研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
20H04742
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
安武 伸俊 千葉工業大学, 情報科学部, 准教授 (10532393)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子動力学 / 状態方程式 / 量子色力学 / 中性子星 |
研究実績の概要 |
本研究は、色分子動力学計算によるクォーク多体計算を行い、中性子星内部における状態方程式を導くことを目的としている。当該年度においては、まず少数バリオン計算によって様々なバリオン質量をすべて再現する現実的な相互作用を最適化計算によって求めた。最適化された相互作用は、カラー磁気相互作用、スピン相互作用である。これによって、現実的なクォーク多体計算を行う下地ができたと言える。ただし、バリオン質量に影響を大きく与えない相互作用(クォーク=メソン相互作用やクォークパウリ相互作用など)に関しては、不定性が残されたままである。これらの相互作用の影響は、少数系に対しては大きくないが多体系になると無視はできなくなることを確認した。これは研究開始当初においては、予想しなかったことである。現在、これらの結果を論文にまとめている段階である。 上記の内容は、中性子星の中心部を明らかにするための研究である。しかしながら、中性子星を計算によって再現するには内殻を表す状態方程式も必須である。ここは、原子核からハドロン物質へと相転移している領域であり、パスタ構造と呼ばれる非一様構造が現れる領域である。さらにこの領域における状態方程式の制限に関して、ちょうど当該年度において大きな進展が報告され話題となっている。すなわち、PREX-IIによる対称エネルギーの制限である。これらを鑑みて、PREX-IIの結果が状態方程式へ与える影響も考慮する必要があると判断し、調べた結果をPhysical Review C(arXiv: 2012.01218)に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していたように、当該年度中に最適化によるクォーク間相互作用の導出は概ねできたと言って良い。ゆえに順調に進展していると言える。この相互作用によって、核子やハイペロンの質量をほぼ再現できる。これを多体系に応用するには、クォーク=メソン相互作用やクォークパウリ相互作用などをさらに最適化する必要があるが、逆にこれさえできればひとまず論文として投稿できると考えている。 また、一方で中性子星内殻の状態方程式に関する論文も投稿することができているために、着実に論文成果も上げているとといえる。この論文の趣旨は、対称エネルギーのパスタ構造への影響である。そのうち明確な結論を1つ紹介すると、対称エネルギーが大きければ中性子星内殻に占める非一様構造はdroplet構造になるという点である。さらに他のグループによる後発の研究によっても、同様の結果が既に再現されている。 一方で計算結果の可視化に関しても、Virtual Reality(VR)による視覚化に成功している。これによって多体系の計算過程において、局所的に起きていることをinteractiveに観ることが可能になった。実際、VRによって計算エラーに気づいた点も多くあり、この技術の将来性に改めて気付かされた一年であった。
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今後の研究の推進方策 |
まずはクォーク=スピン相互作用を考慮に入れた多体計算を行い、その最小エネルギーを求めることによって状態方程式を得る。具体的には、数千個の粒子を6-8fm の周期境界条件を課した箱に入れ、摩擦冷却法によってをこれを達成する。我々はこれまでにもこのような規模の計算は実施しており、1ヶ月に1データを得ることができることがわかっている。これを数モデルから数十モデル同時並行的に計算することによって、必要最低限の状態方程式のデータを得るはずである。ここで懸念していることは、少数系から多体系へと単純に拡張すべきかどうかという点である。多体系に由来する不定性も考慮に入れるため、クォーク=スピン相互作用に関しては、ある程度パラメータをふることも止むを得ないと考えている。 一方で、上記のような計算規模を超える超大規模計算に向けた議論も引き続き行っていく。本新学術に参加している重力多体計算を専門とする研究者との共同研究によって、相互作用が重力である場合は数十万の粒子相関の計算が実行可能であることを確認した。ツリー法によって、系にとって影響を与える相関を選択的に選ぶことによって、このような計算が実行可能になっている。同様に、色分子動力学においても各相互作用ごとにツリーを構築すれば、原理的に超大規模計算が実行できるはずである。この共同研究は、本新学術に参加したことによって発展したものである。ゆえに、この新学術に関われたことを深く感謝している。
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