研究領域 | 重力波物理学・天文学:創世記 |
研究課題/領域番号 |
20H04753
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
祖谷 元 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (70386720)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 宇宙物理 / 中性子星 / 重力波 / 状態方程式 |
研究実績の概要 |
中性子星の内部密度は原子核標準密度を優に超えるため、地上実験から得られる核物質の情報では中性子星状態方程式を決めるには不十分であり、特に高密度領域における状態方程式は未だよくわかっていない。そのため、中性子星の質量と半径の関係ですら決まっていない。つまり、中性子星の観測量から物理を引き出すためには、常に状態方程式の不定性を考慮する必要がある。これに対して、我々は、中性子星からの重力波の振動数と減衰率を中性子星の半径や質量のうまい組み合わせの関数として、状態方程式に依存しない経験則を導くことに成功した。特に、低質量中性子星における音波基本モードの振動数を原子核飽和密度パラメータの関数として、また通常の中性子星における音波基本モードの振動数に質量をかけたものは星のコンパクト度(質量を半径で割った量)の関数として精度良く表せることを示した。これにより、中性子星からの重力波を観測することで、たとえ状態方程式がわからないとしても原子核飽和パラメータや質量と半径の関係に制限を与えることができることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中性子星における重力波星震学は1990年代より活発に議論されてきたが、標準的な中性子星モデルに関する議論だけであった。一方、低質量中性子星は中心密度が低いことから、星の質量や半径が原子核飽和パラメータと直接結びつく。しかし、低質量中性子星からの重力波振動数が原子核飽和パラメータと関連付くかどうかはこれまで不明であった。本年度は、このような動機のもと、低質量中性子星からの重力波振動数を原子核飽和パラメータと結びつけることに成功し、重力波の観測を通して原子核飽和パラメータへの制限の可能性を示した。また、標準的な中性子星モデルに関しても、重力波星震学的立場から状態方程式によらない形での経験則の導出に成功した。これらの経験則は、未だ不確定性の大きい状態方程式とは関係なく観測量を議論できる点で非常に有用である。
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今後の研究の推進方策 |
中性子星の状態方程式依存性を排除した形で、中性子星における観測量やその適当な組み合わせに関する経験則の発見を目指す。このために、中性子星に関連する様々な物理量を状態方程式ごとに系統的に調べる。さらに、中性子星の物理量と状態方程式を特徴づける原子核パラメータのような物理量との関係も検討してみる。中性子星観測を通して、原子核飽和パラメータへの制限が可能となれば、地上実験からの制限とは全く質の異なる制限ができることになる。 さらに、冷たい中性子星だけでなく、超新星爆発後に生じる原始中性子星やその後の冷却過程における中性子星からの重力波スペクトルに関しても、星震学的立場からの解析を系統的に行う。
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