公募研究
現在、我が国の死亡原因はガンに続き、心疾患、脳血管疾患が上位を占める。その要因は主として脂質代謝疾患による脂質蓄積の異常が原因であると考えられている。脂質合成酵素の内、スフィンゴミエリン合成酵素(SMS)は、その阻害により、ガン免疫亢進、アミロイドβのクリアランス等に効果があることが知られている。我々は、フルーツより得られたマラバリコーンが高いSMS阻害能及び肥満抑制効果を有することを見出している。しかし、マラバリコーンによる肥満抑制効果についての詳細な分子機構は明らかとなっていない。本研究では、この分子機構を明らかにすることにより、ガン、肥満抑制に関する機構の情報を得ること目的としている。食用果実から見出したマラバリコーンCは、スフィンゴミエリン合成酵素(SMS)の阻害機能を有し、マウスを使用した実験により、in vivoにおいても充分な肥満抑制効果を示している。しかし、その肥満抑制効果については、既報のSMSノックアウトマウスによるその効果といくつか異なるデータが得られており、その詳細な分子機構は未だ不明な点が多かった。本研究において、マラバリコーンCによる肥満抑制分子機構を解明するため、本年は、RNAシーケンスによる肥満抑制に関わるRNA分子の発現変動を網羅的かつ定量的な解析を実施した。また、創薬を指向し、マラバリコーンC のSAR(構造活性相関)のための、誘導体の合成を行った。さらに、PAL(光アフィ二ティラベル)を目的とした光反応性部位を有するマラバリコーンC誘導体の合成を行った。
2: おおむね順調に進展している
*1) RNAシーケンスによる肥満抑制に関わるRNA分子の発現変動解析フルーツから単離したマラバリコーンCによるHepG2細胞中のRNA発現変動を検討した。最適濃度に調製したマラバリコーンC溶液をHepG2培養に添加し、1日インキュベーションを行った。この際、比較対照実験としてマラバリコーンCを添加しないグループ、及びsiRNAによるSMSをノックダウンしたグループも作成した。インキュベート後、各グループのRNAを抽出しRNAシーケンスを実施した。得られたRNAシーケンスのデータを元に、マラバリコーンCによる肥満抑制効果がどの遺伝子発現の変動により誘発されるか分子特定の検討を行った。2) SARによる強力なSMS阻害剤の開発異なる鎖長のジオール化合物を原料にすることでマラバリコーンの鎖長を調節することとした。水酸基のベンジル保護、ベンズアルデヒド誘導体Ar1とWittig反応により一段階目の芳香族を導入した。②続いてアルケン、ベンジル基を水添により除去し、IBX酸化によりアルデヒドを合成した。これをアルドール縮合によりAr2を導入し、マラバリコーン骨格の形成を行った。③水添によるアルケンの除去によりマラバリコーン誘導体を合成した。また光アフィニティーラベル法 (PAL)によるマラバリコーンの合成を行った。光反応部位を有するマラバリコーン誘導体の合成に成功した。
1) SARによる強力なSMS阻害剤の開発 昨年に引き続きSARによる阻害剤の強化を行う。2)PAL を用いたマラバリコーンC の標的分子及びPPI 分子の解明 SAR によって得られた情報を元に、独自のPAL プローブの作成を行う。PAL プローブの阻害活性を確認後、リガンドの標的分子の釣り上げ、また標的分子と相互作用する他の分子(タンパク-タンパク相互作用:PPI)などの解析を実施する。①SAR の情報を元にマラバリコーンC の活性に影響の箇所に光反応基であるジアジリンを導入したPAL プローブを合成する。②プローブはSMS 阻害活性に供し、その活性が維持されていることを確認する。活性が保証されない場合はPAL プローブの再設計、合成を行う。③十分な活性保持が示されたプローブ候補はHepG2 細胞の夾雑物と相互作用させ、光ラベルを行う。光ラベルは通常のマラバリコーンC と競合試験により特異的に結合する分子を見極める。④釣り上がった分子は酵素消化、LC-MS(/MS)によって解析を進め、分子の特定を行う。3)マラバリコーンC の他の生理活性の確認 マラバリコーンCは、SMS合成に対して強力な阻害活性を有する食品成分である。該当研究室及び北大が有するアッセイ試験に本化合物を供し、他の生理活性試験の発見を試みる。
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Molecules
巻: 25 ページ: 4077-4088
10.3390/molecules25184077
Cells
巻: 9 ページ: 517-535
10.3390/cells9020517
https://life.sci.hokudai.ac.jp/fr/annual-report
http://altair.sci.hokudai.ac.jp/infchb/sub/publication.html