研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
20H04758
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
酒井 隆一 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (20265721)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ホヤ / Cnemidocarpa irene / プテリン / パプアミン / ハリクロナジアミン / 海綿 / ヨーロッパザラボヤ |
研究実績の概要 |
ホヤからは多彩な生理活性物質が多く見出されているが、それらのホヤにおける生物学的意義には不明な点が多い。本研究では、網羅的手法を用いて北海道に生息するホヤの成分を探索し、その生理的意義を探った。北海道の噴火湾で深刻な漁業被害を与えている有害外来種ヨーロッパザラボヤ (Ascidiella aspersa)より長鎖アルキル硫酸エステル化合物を主とする二次代謝物を単離・構造決定し、その生理作用を調べる基盤を構築した。また、渡島小島に生息するシロボヤモドキ (Cnemidocarpa irene) には多彩な芳香族二次代謝物が含まれるが、今回その成分を網羅的に精査し10種の新規化合物を含む15種の芳香族化合物を同定した。本種の血液は蛍光を発するが、その蛍光成分として、血漿にはβ-カルボリン化合物が、血球細胞には新規プテリン化合物が蛍光成分として含まれることを見出した。また、新規のプテリン化合物がグルタミン酸受容体のリガンドとして作用することを明らかにした。本研究ではホヤに加えて生理活性物質の重要な探索源である海綿成分のケミカルコミュニケーションの知見を得た。西表産の海綿Haliclona sp.に含まれるポリカチオン化合物パプアミン・ハリクロナジアミンは脂溶性化合物であるにもかかわらず海水中に放出されていること、また放出された海水がホヤの幼生に対して毒性を示すことを見出した。この結果はパプアミンが海綿から放出されることで海綿のケミカルコミュニケーション物質として機能していることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ホヤの化学物質によるコミュニケーション戦略を理解する目的で研究を行ったが、その題材として南北海道の渡島小島に生息するシロボヤモドキCnemidocarpa ireneおよび、漁業被害を与えている外来種ヨーロッパザラボヤ (Ascidiella aspersa)に着目して研究を行った。生物の成分解析はおおむね順調に進み、プレニル硫酸エステル5種を含む8種の構造決定を終了することができた。これに加えてマイコスポリン類や新規ロリオライド誘導体も得た。ヨーロッパザラボヤに含まれる長鎖硫酸エステルの立体構造を決定することは困難で、合成化学的なアプローチが必要であろうと考えている。今回は生理的研究に備え、ヨーロッパザラボヤの水層での飼育法を確立した。今回、本領域での先行課題「海洋性物のポリカチオンコミュニケーション戦略」のうち海綿のポリカチオンの起源と生態的意義に関する研究についても併せて検討し、強力な薬理活性を持つパプアミン・ハリクロナジアミンが共生微生物の産物である可能性を示す興味深い知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、ヨーロッパザラボヤ成分の探索と構造決定を進めるとともに、その局在性を、イメージングマスを用いて調べる。ヨーロッパザラボヤと近縁でゲノムデータのあるカタユウレイボヤにおいても同様の代謝物が存在するかを検討する。また、それぞれの成分がホヤの生理・生態にどのような作用を持つか調べるために、飼育した個体から卵と精子を採取、受精、発生、幼生の行動等に分離した化合物がどのような作用を示すのかを調べる。もし化合物に着生の促進や阻害などの生態学的活性がみられた場合にはフェロモントラップを用いたホヤの防除が可能かを検討する。パプアミンの起源に関しても研究を継続する。まず、海綿の共生微生物叢をメタゲノム解析で調べる。海綿より分離した細胞を走査型電子顕微鏡で観察するとともに、海綿の切片を作成し、どのような微生物が共生するのかを透過型電子顕微鏡を用いて形態的に観察する。さらにフローサイトメーターを用いた微生物の分離を行い、そのLC-MS分析から含まれる成分を特定し、パプアミンの生産者についての知見を深める。パプアミン含有共生藻の遺伝子解析を行い、その種を特定する。
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